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どれだけ眺めていたんだろうか。
ふいに聞こえてくる声に固まる。
まさか、こんな所にいるはずがない。
だって彼は。
「海彩(みあ)、こんな所で何をしている?」
何回、何十回、いや、何万回聞いても慣れない声。
低い声なのに、優しくて。
この声を聞くと安心が出来る。
「成音(なおと)、どうして、ここへ?」
尋ねる私を見て、ふっと笑った。
『抜け出してきた、たまにはいいかなと思ってな。』
「ぬ、抜け出してきたって、知られたら!!」
その後の出来事に顔色が悪くなるのがわかる。
「冗談だよ。ちゃんと許可は貰った。特別にな?」
試すように唇を歪める彼氏に、あんぐりと口を開けてしまう。
「成音!!」
羞恥心から思わず怒鳴ってしまう。
「ごめんな?降りておいで海彩。」
ふにゃりと顔を緩ませて、なおかつ、両手を広げる。
なんで、こんな事をするんだろう。
私達、吸血鬼は飛べるのは当たり前なのに。
「………誰がみているかわからないだろ?木の上に腰掛けている女の子って、誰もが驚くと思う。だから、おいで。」
ふわりと微笑む笑顔に、私の心がドキンと鳴る、
年上の彼氏様の何気ない表情は、いつまでたっても慣れない。
「じ、じゃあ。」
お言葉に甘えて、ゆっくりと体制を整えて立ち上がる。
下に降りるだけなのに、やたらと心臓の音が煩い。
目を瞑り、ジャンプをするように足を浮かして下へと飛ぶ。
普通なら、ドサっと重たい音が聞こえるけど、無意識に防衛反応がある為に、トサッと軽い音が聞こえた。
「人が見てなくて良かったな。」
耳元に囁いてくる声に身体が震える。
全身に静電気が流れたように痺れるような感覚に、呆然とする。
「なに?もっと、こういう風にしてもらいたいの?」
クスクスと面白そうに笑う声に我に変わった。
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