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似た者同士
「どう?」
「うん、もう少し食べられる」
「良かった!」
今朝の献立は甘塩のシャケ。切り干し大根。切り昆布と竹輪の煮物。三つ葉の味噌汁。
玄関のチャイムが鳴った。
「はーい」
「おはようございます!」
「おはよう、ジェイくん! 早かったのね。朝ごはんは食べたの?」
「花さんと一緒に食べようと思って。これ、牛ごぼうのしぐれ煮。蓮が持って行けって」
「うわ、花くんの好物だ、ありがとう!」
今日はジェイ1人だ。
「お前だけ行って来い。その方が花ものんびりできる」
自分が行くとそれなりに緊張するだろうと蓮は思っている。こんな時はジェイが行けばいい。
(お前たちは似た者同士だよな。生き方が不器用なんだ。だから力が抜けない。そのお前たちが一緒になると力が抜ける。不思議なもんだ)
「座ってて大丈夫?」
花の顔色はまだ良くはない。
「大丈夫じゃなきゃ座ってない」
「そうだね、座れるから座ってるんだもんね」
真理恵は台所で牛ごぼうを盛りつけながら微笑んでいる。
(良かった! ジェイくんのとんちんかん、大好きだよ)
「お前さぁ、朝からアホなこと言うためにきたの?」
「ううん、それ美味しそう! 真理恵さん! 俺も切り昆布食べたい! 朝ごはん食べに来たんだよ」
大盛りご飯と、花と同じ献立を出す。2人の間にしぐれ煮と取り皿を2枚。
「いただきます!」
ジェイはすぐに切り昆布を口に入れた。
「おいひぃ!」
「ばか! 食べながら喋るな!」
「うん」
真理恵はそばを離れた。後を全部ジェイに任せて洗濯に取り掛かる。
「俺の心配ってより、真剣に食ってるな、お前」
「真理恵さんの料理って家庭の味だよね! この前切り昆布煮たけどこんな味にならなかった」
「一緒にすんな、マリエを」
ジェイは食べているだけだ。だが花はすっかり寛いでいる。最近は哲平といても仕事がチラついてしまう花だ、その緊張感が今はない。
「後でさ、散歩行くか?」
「いいよ。今日はいい風が吹いてるから。駅の近くは美味しそうな風だった」
「なに味?」
「コーヒー味」
「散歩の帰り、コーヒーでも飲むか」
「うん!」
先に食べ終わった花が伸びをしながら庭に目を向けた。
「抜いても抜いてもすぐ伸びるんだよな、雑草」
「だって夏だもん。伸び損なうと冬に困っちゃうでしょ」
「なんで?」
「ストレス溜まって」
花は大笑いした。その声が家の中に響いて廊下にバタバタと足音がした。
「お父さん! 具合良さそう!」
花音が花の背中に抱きついた。その手を花が撫でる。
「もう大丈夫。後でジェイと散歩に行くけど来るか?」
「和愛ちゃんが宿題持ってくるの。2人でドリルやるんだよ。学校は土日休みっていうけど噓つきだよね!」
花は家で宿題をやったことがなかった。全部出た日に学校で終わらせてきた。だから花音のグチが微笑ましい。
「分かんなかったお父さんが教えてやるぞ」
「今日は俺もいるし」
お父さんが元気で嬉しい花音はジェイに『おはよう』の挨拶も忘れていた。後ろから来た花月が挨拶をする。
「おはよう、ジェイくん!」
「おはよう、かづくん。後で宿題教えてあげようか?」
「僕、学校でやってきちゃったから。だから和愛と花音の家庭教師やるんだよ」
自分に似ている花月が嬉しい花父。
「じゃ、ジェイと2人で出かけるよ」
「無理しないでね、お父さん。途中で具合悪くなったらジェイくんに頼ってね。ジェイくん、お父さんをお願いします!」
すっかり大人びた花月は行き届いている。
「大丈夫だよ、かづくん。俺に任せて」
「はい」
食べ終わった食器を台所で洗いながら、ジェイは思ったより青い顔をしている花が心配だった。
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