心強い身内

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   花は2時間ほどして起きた。朝より気分がいい。充分休養が取れた気がする。襖に目をやると、ほんの少し開いて子どもたちが覗いているのが分かった。 「おいで」  その言葉を待っていたように双子がなだれ込む。 「お父さん、もう元気になった?」  花父の笑顔が嬉しい。花音は早速父の横に滑り込んだ。 「もう元気だよ。心配かけたな」 「もう少し休むよね?」  心配そうに花月が聞く。 「たくさん寝たからもう起きるよ」  花父は起き上がった。 「そうじゃなくて、お仕事」 「心配要らないって。明日はもう良くなってるから」 「仕事に行くの? だめだよ!」 「花月、今は会社は忙しい時期なんだ。お父さんが休むとみんなが困るんだよ」 「僕たちも困るよ! お母さんだってお父さんのこと心配ばかりしてる! 約束だったでしょう? もうお母さんに病気のことで心配かけないって!」 「かづ、無理しないから」 「嘘だ!」 「お父さん、また仕事し過ぎで入院しちゃうの?」  騒ぎを聞きつけて真理恵が入ってきた。双子の訴えを聞いて涙が溢れそうになる。  翔が間に入った。 「かづくん、かのちゃん。俺がお父さんが働き過ぎないように会社で見張っててあげるよ」 「ほんとう?」 「本当だよ、かのちゃん」  花の眉間にしわが寄る。 「お前、出来ない約束勝手にするな」  花は嘘が嫌いだ。子どもたちを裏切りたくない。 「花さん、翔くんの言うこと聞いて」  ジェイまで入ってきた。周りでわいわい言われて怒鳴りそうになった時にチャイムが鳴る。 「ちはっ、上がるよ!」 「哲平ちゃんだ!」  花月は玄関に走って行った。 「よぉ、元気か?」 「先週会ったじゃん! お父さんに仕事しろって言いに来たの? 僕は行かせないからねっ」 「なんだよ、来た早々に。お父さん起きてるのか?」 「起きてる」 「じゃ、先に会わせてくれよ。話はそれから。いいか?」 「うん……」 「いい子だ」  頭は撫でない。ジェイと違って花月はもう『男性』を主張している。頭を撫でられるのは子どもと女の子だけと思っている。 「来た早々花月に怒られた」  そう言いながら真ん中に胡坐をかく。 「和愛、来てるだろ? 子どもたちは勉強してろ。ここからは大人の話だ」 『大人の話』には加わってはいけないことになっているから、渋々双子は引っ込んだ。  哲平は浴衣姿の花の顔を覗き込んだ。 「なに?」 「うん。顔色が悪い。明日も休みだな」 「なに冗談言ってんのさ、仕事詰まってるっていうのに」 「お前がいなくてもいいくらいにはヒマになった。翔、どうだ? お前明日から来れるだろ?」 「はい、よろしくお願いします」 「ん。翔も来るしな、お前、邪魔」 「邪魔ってなんだよ!」 「管理職にとって病み上がりの人間は使いにくくてしょうがないってこと。それから早出残業は俺がいいと言うまで禁止」 「そういうの越権行為って言わない!?」  哲平が返事するよりジェイが早く答える。 「言わない。社員の福利厚生考えるのは上司の役目だよ。哲平さんの言うことが正しいよ、花さん」 「定時のことなんですけど」  翔が提案をした。 「俺も当分は早出残業できないですよね。それで優香の車で送り迎えしてもらうんです。購買って時間外が無いから、俺たちが花さんを送り迎えしたらどうかなって思うんですけど」 「翔! ぺぇぺぇのクセに上司に指図するな!」  哲平はにたり、と笑った。 「いい考えだ。決まり。明後日から頼むな、翔」 「はい!」  花の怒る間がない。哲平の言葉が続く。 「真理恵!」 「はい」 「しばらく弁当無しで頼む。こいつ、弁当食いながら仕事するからさ、なごみ亭に放り出す。花、午後も定時から仕事だ。ジェイ、いいな?」 「ミーティングとかどうすんの!」 「代打を出す。いいか、お前に拒否権は無い。家族も会社側もお前に働き過ぎてほしくない。蓮ちゃん風に言わせてもらう。以上だ」  哲平の頑固さは知っている。とうとう花は折れた。 「やってらんない。みんなでタッグ組まれちゃ」  最後に待っていたのはジェイの涙だった。 「花さん、分かって、お願い。みんな花さんが大好きなんだ。だから、だから……」 「分かった、分かったよ! まったく、お前が泣くなよな」  
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