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終わり良ければ
蓮の記憶は浜田の願った通りほどんと残ってはおらず、ただひどく酔ったこと、ジェイと仲直りしたこと、気持ちよく愛し合ったことがとんでもない二日酔いと共に頭に残っていた。
「蓮、寝てていいよ。たまには源ちゃんと市場に行きたいし、モーニングの用意なら俺たちで充分だから」
時間に合わせて目だけは覚めたが、とてもじゃないが起き上がれない。ジェイに薬を飲まされ、唸るように「わるい、たのむ」とだけ答えて蓮はひたすら眠りに逃げた。
「久しぶりだよね、源ちゃんと市場に行くの!」
「そうだな。蓮ちゃんは今日はだめだな、きっと」
「うん、そうだと思う。あんなに酔ったの、久しぶりに見た」
ジェイは経過は話していないが、源は浜田からのメールでさらっと中身を知っている。
『夫婦喧嘩で兄貴は酔い潰れたから。明日はだめだと思うので源ちゃん、頼むね』
源にしてみれば(あぁあ、またか)といったところだ。原因など聞きたくもない。グチでも零されちゃ敵わないと思う。
「じゃ、蓮ちゃん抜きで考えよう。特に宴会も無いし大丈夫さ」
「良かった! ね、相談があるの」
(うわ、来たか!?)
てっきり夫婦問題かと警戒したが、そうではなかった。
「匠ちゃんの誕生日、お祝いしたいって思って。どう?」
「あ……二十歳か!」
「うん! 特別な誕生日だから。妹さんも呼んでお祝い出来ないかな」
「いいね、それ! ってことは休みの日がいいな」
「いつ? 土曜とか?」
源は考えた。週末は父親のところに行くことが多いと聞いている。その時間を割いて誕生祝いというのは気の毒な気がする。
「あのな、祝日あるだろ、海の日」
「あ、今度の?」
「そうそう。その日の予定をそれとなく俺が聞いてみるよ。良ければその日にしよう。どうだ?」
「じゃ、みんなにも伝えなくちゃね!」
「まず匠ちゃんの予定を聞いてからな。それまでは待てよ」
「分かった! ありがとう!」
源はふっと笑った。こういうことにまで『ありがとう』が出るジェイが、源にとっても嬉しい。思わずハンドルから左手を放してジェイの頭を撫でた。
その日は完全にダウン。蓮にとって黒歴史の一つになる。経営者なのに二日酔いで仕事が出来ないなど、自分にしてみれば言語道断だ。
ただ、浜田と光ちゃんに迷惑をかけたような気がしてならない。光ちゃんには今度謝るとして、浜田にはメールを入れた。
『夕べは迷惑をかけたと思う。悪かった』
短いメールに、浜田の返事はすぐに来た。
『どうってことなかったよ。具合は?』
『二日酔いで参ってる。今日は休んだ。本当にすまん』
『大丈夫。また飲もう、兄貴』
その『兄貴』という文字に笑みが浮かぶ。
『そうしよう。ひろ、陽子によろしくな』
心の負担が減ってほっとしたところにジェイが朝食を持ってきた。ランチ用のおかゆと茶碗蒸しと味噌汁。
「食べられそう?」
「頑張って食べる。悪いな」
「ううん。昨日はごめんね」
「もういいって。俺も大人げなかったし。今日はお前に甘える。店を頼むよ」
「うん! こう見えても店長だからね! 蓮がいなくってもちゃんと出来るよ。ほら、入院してた時も俺頑張ってたでしょ?」
「そうだった。じゃ、今日は店長に任せた」
「はい!」
モーニングの時間だから会話はそのくらい。それでも心が軽くなり、朝食もなんとか食べて、蓮はぐっすりと眠ることが出来た。
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