405人が本棚に入れています
本棚に追加
/183ページ
柴山たちが動いてはいるが、肝心の4人の特定が出来ずにいた。写真も撮ってある。その写真を頼りに西村、堂元、瀬川が動いているがどこの者かが分からない。
「分からねぇか」
「はい。東井組には当然いませんが、元桜華組やあちこちのチンピラに当たっていますが面子が割れません」
柴山は今、親父っさんのところにいる。指示を仰ぐのも早い。
ふっと親父さんの頭に過った顔がある。
「新庄」
「新庄ですか!」
「分からねぇが、探れ。そっちから来ているかもしれねぇ」
「だとしたら慎重にやらないと」
「そうだな。直接新庄のところのもんが動いちゃいねぇだろう。だがあそこから雇われたもんかもしれねぇ」
「はい。すぐに当たります」
「頼むぞ。大将んとこも引き続き手を抜くな。だが一般のお客さんに迷惑のかからないようにしろよ」
「はい」
柴山はすぐに堂元たちに連絡した。親父っさんは心苦しくてならない。蓮には何度も迷惑をかけている。大ごとにならない内にこの件にケリをつけたい。最終手段は4人をかっ攫ってくることさえ考えている。
店に来るのは5人となった。テーブルが2つ並ぶ。蓮がその5人が座っている席に近づいた。堂元から来ている者たちに緊張が走る。同時に、店のスタッフにも。
(蓮ちゃん、いや、大将、何考えてんですか!)
源以下、光ちゃん他スタッフもいつでも飛び出す覚悟だ。光ちゃんは身元がバレてもいいとさえ思った。蓮ちゃんに何かあってほしくない。
「お客さん。いつも贔屓にしてもらって有難いです。今座敷が空いてますので、そちらにどうぞ」
「俺ら、ここでいいよ」
「座敷はくつろぐには持ってこいですよ。料理も店から出します。どうですか?」
「いいって、ここで」
蓮は飲みかけのビールを掴んだ。顔はにこやかだが有無を言わせぬ態度が見える。
「大人しく座敷に移ってもらえませんかね」
そう言うと、そのビールのジョッキを座敷に移し始めた。
「おいっ!」
「店からのサービスですのでどうぞ気になさらず」
次のジョッキに手を出す。その手首を掴まれた。だが蓮の腕力も半端ない。
「困りますね、そう掴まれちゃ動けないじゃないですか」
相手の手首をもう片方の手で掴み返す。相手の手が離れた。真っ赤になっている。次のジョッキを運ぶ蓮は冷静だった。
「野郎!」
5人が立ち上がる。それを見て蓮がにこっと笑った。
「どうぞこちらへ」
「舐めた真似しやがると」
「どうぞこちらへ」
繰り返して残りの物を座敷に持っていく。その後を5人が追った。
奥の座敷では5人が蓮を囲んでいた。追ってきた花が蓮の脇に立つ。
「花、戻れ」
「冗談」
「手荒な真似をする気はねぇよ」
「俺たちゃ向こうの席がいいんだ」
断固とした声で蓮が言い放つ。
「俺はここで飲んでもらいたい」
座敷の外には堂元の2人が中を伺っている。厄介なことになれば、なだれ込むつもりだ。
「分かんねぇヤツだな。厄介はかけてねぇだろ」
「あんたらがいるってことが厄介だ。他のお客さんへの影響があるんでね」
蓮は考えて行動に出ている。結局のところ、事が起きないから進展しない。堂元のところの者たちが動けないのも、何も起きないせいだ。
今日は一般のお客さんが少ない。動く前に伴に『会計無しってことでお客さんに帰ってもらえ』と言い含めてある。もちろん弁当を持たせて。
表の札は『準備中』に変えさせた。そして暖簾も引っ込めているはずだ。今日片を付けてしまいたいのだ、いつまでもこの状態を維持するわけにはいかない。
「面白れぇ、ことを構えようってのか」
「半田、やめろ」
半田という男は最初に来た背は低いが、ガタイがいい方だ。
「ここまでバカにされてたまるか」
(こいつは直情的だな)
蓮は的を絞った。半田を煽る。
「あんたらの出来ることはこの程度ってことか? まるで子どもの嫌がらせだな」
「蓮ちゃん!」
「花、向こうに行ってろ!」
「そうはいかない!」
花も引くつもりは無い。そのために来ている。
『子どもの嫌がらせ』
その言葉にカチンときたらしい。半田が前に出てきた。
「おい、その辺にしとけよ」
「なにが? これ以上しみったれた嫌がらせをしないでくれ。ケチくさくジョッキ一杯で長居されたんじゃこっちは迷惑なんだよ」
「なんだと!?」
「よせって! まだ動くなって言われてんだろ!」
「へぇ! まだなんかする気か? 幼稚園の保護者の集まりみたいなもんか? そりゃ楽しそうだ。座敷貸し切りにするなら予約をもらおうか。料理用意しとくが」
半田がが殴りかかってきた。それは蓮に届く前に花がねじり上げた。
「花、手を出すな」
「それこそ、冗談! 黙って見てられるかっつーの!」
「てめぇ!」
もう1人が蓮の顔面を殴った。蓮はこれを待っていた。
「これで不退去罪、威力業務妨害罪に傷害罪が追加だ。もう罰金や執行猶予ってわけにはいかないな」
それを聞いて、5人が暴れ始めた。襖が大きく開いて8人が飛び込んできた。
「任せよう、蓮ちゃん!」
花が叫ぶ。
「俺の店だ!」
蓮がそばに転がった1人を掴み上げて上から拳を下した。さっき自分を殴った男だ。
「引いてください。これは俺らの仕事です」
柔和だった堂元の男が冷たい目を光らせていた。
「……じゃ、任せます。出口は裏からでお願いします」
「分かりました。事を荒立たせてくれたお陰でこっちもやりやすくなりました。礼を言います」
深く頭を下げられた。
最初のコメントを投稿しよう!