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蓮のちょっとした悩み
田中、池沢、野瀬、中山、浜田、和田が飲みに来た時だ。
「……ってことになる?」
「いやそれは、……」
なにかを盛んに言い合っている。そう混んでもいないから、珍しく蓮は呼ばれるままにエプロンを外して席に座った。
「なんだ?」
「今ね、どこが亭主関白かって話してたところ」
浜田がちょっと酔いの回った口で説明した。
「花んとこはそうだよね」
浜田が言う。
「いや、あそこは真理恵が上手く回してるだろ」
これは池沢の意見だ。確かに、とそれぞれが頷く。
「広岡んとこはかかぁ天下だな」
「それは決まり!」と野瀬。
「お前んとこもだろ」
蓮が混ぜっ返す。これには野瀬も何も言えない。本当に頭が上がらない。
「俺んとこは亭主関白ですよ」
はっきり言い切ったのは和田。
「絶対にごちゃごちゃ言わせないですからね」
ファミリーの会に夫婦でいた時にも和田の奥さんはとても控えめだったから真実味を帯びていた。
「中山は?」
蓮が好奇心で聞いてみる。
「あ、俺んとこは共和制です。なんでも話し合い」
これは中山らしい。
今度は浜田が興味津々で聞く。
「池沢さんとこは? やっぱ三途さんだし、かかぁ天下だよね」
そこで隣同士だからごつん! とゲンコツをもらった。
「ありさはああ見えて引く所は引くし、いつも俺の意見優先だ。だから亭主関白だ」
この家の問題はどっちに転んでもおかしくないから、みんな言葉を挟むのを控えた。だいたい、『引く所は引く』という言葉に全てが表れているではないか、と。
「浜田んとこは不思議だよな。やっぱりかかぁ天下か?」
「う~ん…… 俺には分かんないよ。陽子は良くしてくれるし我が侭も言わせてくれるけど、そうさせてくれてるって感じがするし。そういうの、どう言ったらいい?」
「共和制でいいんじゃないか?」
一応中山の案が取り入れられ、共和制で落ち着いた。
「さっきからにやにや聞いてるが、田中は?」
蓮が田中を覗き込んだ。
「どう見ても亭主関白! って感じだよね」
「そうそう!」
和田と浜田が頷き合う。
「ウチ? 俺んとこは中山と同じだ。共和制」
これは意外だ、と蓮は思う。どう見ても田中は日本男児風に見える。
そこで出た。
「蓮ちゃんは? もちろん亭主関白だよね」
そう浜田に言われてみんなも頷き、蓮も
「そりゃ」
と言いかけた時だ。脇をジェイが通りかかった。
「ウチは違うよ。ね、蓮」と言葉を残し、テーブルの片づけに行ってしまった。
「意外……」
「……確かに蓮ちゃんはジェイに甘いよな」
「へぇ、理不尽大王がねぇ」
「そうは見えなかったけど」
「ジェイの尻に敷かれてるってことか」
「フタを開けてみれば、ってヤツか?」
それぞれが口々に言う。肝心のジェイにそう言われてしまって、『亭主関白』でありたい蓮は何も言えなくなってしまった。ジェイから見て、自分にはその風格はないのだろうか……
ジェイは片付けながらシンプルに考えていた。
(俺、奥さんじゃないし)
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