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母には何度も「あぁ、お兄ちゃん欲しかったなぁ」と小言を言っていて、そう言うとたいてい母は無視を決め込む。
高校生だったある日、そんな母の態度が癪に触って「子連れと再婚したらいいのに」と冗談のつもりで言ったことがある。
母には「はあ!?結婚なんて懲り懲りだね!」とすごい剣幕で怒鳴られ、持っていたトマトの大玉を素手でグチョグチョに潰し始めるという一件が生じて以来、兄が欲しいことも再婚の話も母の前では口にすることはやめた。
母はバツ三だ。
私が中学生だった時の三度目の再婚相手はいつ召されてもおかしくない程のお爺さんで、僅か一年の結婚生活ののち死別されている。
遺産目当てだと周りには陰口を叩かれていたけど本当のところは本当に遺産目当てだったらしく、しかし蓋を開けてみれば資産など何もない人だった。
とことん、結婚運が悪いというか、見る目がないというべきか。いや、母に問題があるのか...。
母が再婚離婚を繰り返したため私も何度も苗字が変わったり戻ったり、引っ越しも多く、それなりに苦労の多い子供時代だったと思う。
一人っ子だったため、気持ちを共有できる兄弟がいればいいのにな、といつも思っていた。
そう、特に、お兄ちゃんがいればなって。
弟はいいや。面倒見るの面倒だから。お姉ちゃんも妹もいいや。
やっぱお兄ちゃんがいい。
私を溺愛して、いろんな事から守ってくれる強くてかっこよくて優しいお兄ちゃんが、本当に欲しかった!
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