2.バカにされては笑えない

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 朝五は容姿を磨く努力をしている。  毎朝軽い運動を欠かさず週に三日は筋肉を育て、服やインテリアにも気を遣いなるべく笑顔を絶やさない。  もし朝五への告白のきっかけが容姿に対する一目惚れだったのなら、夜鳥の幻滅はあり得る話だ。  カッコつけなだけでこと恋愛に関しては見た目に合わずべそべそと泣き虫な朝五が、夜鳥は冷静に不快と気づいた。 (てかそれしかありえねーじゃん。だって一番好きって人を自分から告白したくせに一ヶ月も放置して連絡ガン無視とかポジティブな理由ですんの? 説明もなく?) 「それむしろ嫌いじゃね……?」  意気消沈してテーブルにへばりついたまま、朝五は自分のメッセージで埋まっているトーク画面を意味なくなぞった。  傷口に塩を塗られた朝五のメンタルは、大いにささくれ立っている。  バイト中はなんとか笑顔を保っていても、終わってしまえば素直な顔には嘆きと苛立ちしか生まれない。  またしても、ダメになった。  いつの間にやら、ダメなのだ。  必要以上にネガティブになってしまっても仕方がないだろう。  自分を擁護し、デロンとアメーバ状態になる朝五。 「せっかくバイト終わったってのに小一時間スマホ眺めながら突っ伏してたかと思ったら、なに言ってんだか……」  そうしてジメジメと湿気る朝五に、そばのデスクで事務作業をしていた男が振り向き溜息を吐いた。  朝五は視線だけを上げて応える。 「もうお前しか残ってねぇぞ。お前が帰らねぇと俺も帰れねぇんだよ。男の愚痴なら聞いてやるから、さっさといつものアホ面に戻っちまえ」 「聞いてくれる? 子ども店長」 「叩き出されてぇのか」  ナイフのような視線で突き刺す彼は──夕暮(ゆうぐれ) 文紀(ふみき)。  三十代半ばでありながら百六十と少しの控え目な背丈と童顔な文紀は、この居酒屋の店長だ。  朝五と同じゲイである。  お互いがそうだと知ったことをきっかけに親しくなった。  文紀はいわゆるバリタチで、朝五の知る男の中で最も男気に溢れている。  そんな公私共に頼れる文紀と出会って、もう二年が経つ。一回りも年の違う雇い主と雇われ人だが、朝五にとって文紀は気の置けない友人でもあった。 「で、今度はどうフラれたんだよ」 「べっつにー? いつもの好きな人ができたから別れてくださいパターンですよ。浮気だったら顔面にパンチ入れてやんのに今カレもセットで本気宣言とか、どうしようもねぇじゃんな。つけ入る隙ナッスィング」  単刀直入な切り口。  朝五は唇を尖らせる。反論はできない。朝五が悩む理由の大半は、実際交際相手についてだからだ。  文紀はパソコンをシャットダウンしながら「毎回それとか逆にスゲェわ」と感心する。朝五当人は笑えない。 「じゃ、ストーカーもどきってのはその元カレか?」 「違ーう。その気のねー男を無様に困らせるほどバカじゃねーし。ま、フラれちゃっても好きだったんだからさ? 傷つけたりしねーです。孝則のことはちゃんと自分で処理しました。朝五くんは偉いね~」 「ふぅん。じゃあ誰だよ、もどき」 「それはぁ……今カレ、だと思ってる幼稚園児系オレ様変人野郎?」 「は? パターン変わりすぎだろ」  ノートパソコンを閉じた文紀はデスクチェアを回転させ、訝しげに眉を顰めた。
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