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──夢目乃 朝五は一番が好きだ。
正確に言うと、誰かの一番好きな人になることが好きだ。情の名前はなんでもいい。とにかく誰かのナンバーワンになりたい。
きっかけは些細なことだった。
幼い頃の記憶。
愛し合って結婚したはずが離婚してしまった両親を見て〝一番好きな人でないと終わってしまう〟と刷り込まれた。同じ男にしか恋焦がれない性癖に気づいたせいでもある。
結婚や子宝には恵まれない。
個人の愛が寄り添い合うには必須だ。恋愛だけでなく、なにごとにも愛は必須だ。
しかしこれほど願っていても、朝五は一度も誰かの一番になったことはなかった。
お互いを愛し続けられなかった両親だが、息子である朝五と兄は愛している。
朝五を引き取った父も兄を引き取った母も、二人の息子に甲乙はつけられないと言う。朝五でも兄でも構わないということになる。朝五も両親や兄を愛しているが、唯一の一番でなければ不安だ。
朝五は一番を探した。
しかし友人は多くとも、親友と呼べる片割れはいなかった。
そして朝五が付き合う恋人たちも──朝五を一番、愛してはくれなかったのだ。
もちろん、朝五はどの恋人もいっしょうけんめいに愛した。
同じ性癖の相手に限ったが選り好みなんかしなかったし、いつだって相手はすぐに見つかる。
容姿だって磨いた。
百八十センチの長身。スマートな体躯。柔らかい金髪が映える甘い顔立ち。色男の自負がある。男女ともにモテたので、自惚れでもない。顔だけのアホだとも称される。全部まとめて事実だ。
ノリのいい性格と派手な容姿から〝誰とでも付き合う軽薄な遊び人〟と言われることもしばしばあるが、それは事実ではない。
『朝五が一番好きだよ』
この言葉は、気持ちは、朝五にとって特別に大切なものだった。
継続するために、朝五は恋人に同じ気持ちで向き合い続ける。
軽口は叩いても心は嘘じゃない。
できる限り希望も叶える。朝五なりに、恋人を愛していたからだ。
──……なのに。
どういうわけか、朝五の恋人たちはいずれ朝五に別れを切り出した。
しょうめん切って遊びだったと言われることなんかない。みんな示し合わせたように「他に好きな人ができた」と言う。
経路はまちまち。行先は同じ。
(〝お前は悪くない〟?)
(〝嫌いになったわけじゃなくてもっと好きな人ができただけだって〟?)
(いちいち回りくどい言い方ばっかりして、失礼するぜ。はっきり言えよ)
──お前は一番好きな人じゃなくて二番目に堕ちたんだよ、ってさ。
朝五の恋路は、いつもそう。
唯一無二の一番になれないまま、誰かの二番目以下で終点を迎えるのだ。
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