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北海道:札幌~コンビニ探索~
パキリパキリとガラスを踏む音が街に響く。
本来なら喧騒に包まれているはずの繁華街は恐ろしい程に無音だ。
時折吹き抜ける風がビルの割れたガラスに反響して女性の悲鳴のような気味の悪い音を立てるだけ。
とはいえ、ガラスの割れている箇所もそう多くはないので、常に悲鳴が鳴っているわけではない。
何かの拍子に割れたガラスがある建物は寧ろ過小だ。
これ程までに街が綺麗にあるというのに…その主たる人間は今のところ一人。
…猫の子一匹いない。
耳を澄ませば、羽虫等が飛んでいる音が小さく聞こえるが、数は多くないようだ。
「ガソスタは街の郊外のでいいとして…。と、すれば──まずは、ご飯」
慣れた様子で、車群をスイスイと抜けていく。
どの車も埃をかぶっており、フロントガラスは黄砂に汚れていた。
少なくとも、黄砂が一度降り注ぐ季節にはこのまま放置されていたことが分かる。
薄暗く沈む車の中には微かに人影のような物が見えるが、彼女が気にした様子はない。
いくつかの車は窓が開いており、あきらかに人影があるというのに、覗き込みさえしないのだ。
興味がないというよりも、意図して避けているようにも見える。
そして、車群を抜けて一つの建物にたどり着くと──
「やっぱコンビニが一番よね~」
お邪魔さん~と、軽い様子で店内へ、
沈んざ夕日につられて町はドンドン暗くなっていく。
このコンビニも同様に、一切灯りはなく。
室内ゆえ、外よりも暗い。
キィと扉を開けると、内部へスルリと入っていく。
珍しく、自動ドアではない店舗らしい。
「引く」と書いてあるのに、押して入るくらいには気にもしていないことだったが…
カチリとライトを点灯───
「お、おぉ…失礼しますよ」
踏み込んだ一歩目。
バリバリバリと枯れ枝を踏むような…いや、それよりも心臓を鷲掴みにするような気味の悪い乾いた音が響く。
骨。
人骨。
白骨死体。
その大腿骨部分を盛大に踏み割ってしまった。
遺体損壊。
犯罪である。
しかし、彼女はその犯罪を気にした風もなくコンビニへ入る。
顔はしかめっ面だ。
決して踏みたくて踏んだわけではないらしい。
むしろ、この店を選んだことを後悔している様子も見える。
しかし、今更引き返す気もないのか、死体には目を向けない様にしつつも足元を中しいて入る。
「缶詰くらいしかないだろうけど…お」
かなりの月日が経っているのか、腐敗臭こそないが、一種のカビ臭さが漂っている。
死体が白骨化するくらいだ。
一日二日ではないのだろう。
そもそも、死体が放置されている状況がおかしいのだが、そのことを言及する者はここにはいなかった。
「…いいね。真空パックはまだ食べれそう」
北海道を中心に、最近関東にも広がり始めているオレンジ色のコンビニだ。
小さなスーパーマーケットといった感じの店では、ちょっとした食料品なんかが一般的なコンビニのラインナップからは微妙に外れて扱われているのだ。
ここにもそれ。
氷下魚の干物が真空パック詰めで売られている。
消費期限は当然すぎているが、元々乾物を更に真空パック詰めしているだけに、十分食べれそうだ。
ありがたいと感謝し、コンビニの籠を拝借するとそこに、放り込んでいく。
そこまで人気商品ではなかったのか、棚に5つもぶら下がっていたのは僥倖だ。
さて…あとは、
う…また人骨。
ボロボロに溶けた段ボールを抱え込むようにして白骨化している。
いや、白骨というには語弊がある。
風雨にさらされることもなく、店内で腐敗し乾燥したそれは…茶色なのだ。
コンビニの衣服もナイロン素材のためか、そのままの残っており、胸にぶら下がるネームプレートには顔写真と研修中の文字まで読み取れる。
名前は───…まぁ、読んでもしょうがない。
死体の足元は茶色の土の様なものが溜まっている。
アレがいわゆる腐肉土とでもいうのだろうか…腐葉土の人間版だ。
髪の毛なんかがそのまま浮いていたりカサカサに乾燥した内臓なんかは原型を保っていたりするので、見ていて気分のいいものではない。
だが、その死体の抱えていた箱には缶詰がぎっしり入っている。
一瞬どうしようかと悩む。
缶詰は魅力的だが、死体のなれの果てがびっしりとついている。
もはや、タダの土なのであろうが…やはり気分は良くない。
「やめとくわね…」
一個だけ拾い上げ、ラベルを見る。
……いわゆる猫缶だ。
まぁ、無理に持っていくモノでもない。
この店には他にも、色々缶詰はあるからな。
そう思い、棚を物色し、缶詰類を回収。
鯖缶、肉の大和煮、コンビーフ、ミカンシロップ漬け。中々大量だ。
あとは…
これこれ、
カップ麺。これがいいんだよね。
こんな風にコンビニを漁るでもなく、お金を出して購入していたころは中々手の出せないような高級カップ麺もある。
しかし…
基本的にその手のカップ麺は、中々状態がよろしくない。
何たって、たいていが生麺の真空パック詰めだからだ。
真空パックゆえ行けるのではないかと思うが…基本、全部腐っている。
なので、高級カップ麺は諦めて中堅どころを頂く。
これは一度揚げてあるうえ、具材はフリーズドライ製法で作られているから全然食えるのだ。
ありがたいね。
KINGサイズのそれをいくつか見繕いかごに入れていく。
あとは、パッサパサの栄養補助食品に、ゼリー飲料。
そして、ジュースだ。
ペットボトルは偉大だ。
腐るということを知らないらしい。
そして、酒。
これもいい。
まずもって腐ったものが基本的にない。
嗜好品としては甘味以上に優秀だ。
こんな世界だ気晴らしは必要だろう?
一等高いビールにウィスキーをいくつか選ぶ。
このビールはこんな世界でもなければ早々飲めるものではない。
故に、第3のビールだとか発泡酒には目もくれない。
ビール一択だ。
二つの籠にギッシリと詰め、店を後にする。
手に食い込みそうになり、フト思い付いて店からカートを持ってくる。
…うん、いいね。
コンビニでカートを使う機会などほとんどないだろう。
あ…ツケにしといてよ?
払えないだろうけど…ってか、お金あるけど要らないよね?
だって使う人いないもんね。
ヒュゥゥゥー…と風が吹きすさぶ中、ジャケットのチャックをあげ、街を進んでいく。
燃料を後回しにして、次は寝床だな、と。
すっかり暗くなった街を進んでいく。
巨大な廃墟と化した街───
いったい何があったのかは知らないが…
細いライトの灯りだけがフラフラと揺れて街を征く。
彼女は一人行く…
誰も、
彼も、
何もいない街…
向かう先は、札幌最大の繁華街ススキノ───
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