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北海道:札幌~ススキノ1~
ススキノ───
札幌の中央区、道幅は広く路面電車すら走っていたようだ。
今はその残骸があるのみだが、道のど真ん中にレールが走っている光景は、見慣れないものからすれば少々威容にも見える。
フラッシュライトの先にはそのバスのような車体が、道の中州のように設けられた停車位置に鎮座し闇の中に眠っていた。
周囲に付き従う車のように、その車体も一様に黄砂を被って汚れている。
もはや清掃してくれる人間はいないのだ…
フンを落とす鳥も、
時々ひかれるキツネも、
時間に五月蠅い人間も、
もう誰も何もいない。
ぼんやりと見える車内にはその残滓が腰かけているのみ。
「やっばい…すっかり真っ暗…」
秋の夕方。その陽が落ちる速度を見誤った。
この暗闇…
気分のいいものではない。
足元も見えないし…
何より不気味だった。
この中で寝床を探すのはあまりお勧めしない。
…だって超怖いもん。
うん、それだけだよ?
チっと、自らの時間管理能力の低さに呆れる思いで舌打ち一つ。
足早にこの場を去ることにする。
寝床の候補は、色々あるが一軒家の方がいい。
物見遊山のつもりで中央区に入ったのは間違いだったか…
こんな世界になってもGPSは生きている。
スマホの地図アプリも活用できるので、その案内に従って逝けば元のサイドカーの位置まで戻るのはそう難しくはないが…
それにしてもどうだ…
この都会という場所の特徴の少なさよ。
札幌最大の繁華街ススキノを歩く。
どこもかしこも小綺麗なオフィスビルやら…ススキノに在りがちな風俗店に溢れかえっていた。
一方通行も多いようで、車群は皆お行儀よくその方向に頭を向けてご臨終なさっている。
まるで、そのに乗っていたのは人間という名のロボットだったのかと思わせる。
ススキノには、飲食店も多く巨大なカニの看板やら、ビールのイラストが目立つ。
それは雑居ビルの表にデカデカと表示されており…十何階建てのそこには、いくつもの飲み屋と風俗店が軒を連ねているようだ。
きっと、かつては賑わい───もう一軒、もう一軒なんて言いながら飲み屋をフラフラ回る人々で溢れていたのだろう。
…っと、
これは、無理だな。
かなり広い道路には、大量の遺棄車両と───
遺棄死体で溢れかえっていた。
信号待ちの状態で折り重なる骨。
地下鉄に入るものと出るもので別れた骨。
大手のデパートの入り口で詰まった骨
骨骨骨骨骨骨
一見すれば地獄の光景。
それが闇の中に沈んでいる。
明るければさぞ壮観だろう───
陽の元で見る人骨の山もきっと不気味だろうが…
ライトの円の中に浮かんだ骨の山も…また不気味だった。
だって…
ライトに先とその見えない周囲も、人の骨があるのよ。
「……」
こういう時、独り言をいいそうだけどさ、
実際言葉は出ない。
何か得体のしれない化け物に聞かれそうで…
あるいは、その独り言に返答があっても…怖い。
背中には自動小銃があるが……
まぁ意味はない。
だって、ただの人骨。
カルシウムの塊…
ファンタジー小説じゃないんだ。
スケルトンの大軍ってわけでもない。
本当に、ただの死体なのだから…
やばい…本当に気味が悪くなってきた。
不意にこみ上げる恐怖感に駆けだしたくなる。
しかし、それは厳禁だ。
パニックを起こせば方向を見失いかねない。
GPSがあったとて…人骨で埋まった歩道を歩かされるのが関の山だ。
それくらいなら落ち着いて元来た道を引き返す方がいい。
くっそぉ…
都会なんてクソ食らえよ!
誰も頼んでもいないし、勝手に来た癖に文句タラタラだ。
あー…くそ、だめね。まったく見えなくなってきた。
闇に沈むススキノの繁華街は、恐ろしいほどの遺棄死体で埋まっていた。
観光客も多かったのだろう。
そして外国人も。
なぜか、折り重なる死体を見て…パッと、「あ、日本人じゃないな」と感じるほどに、死体すら観光客は独特の印象がある。
服の色や、死に方…持ち物。
あとは骨格だろうか。
まったく、どうでもいいことを考えながらも、サイドカーを止めた位置まで戻ろうとするが…
「ダメ…」
漸く吐いた言葉は、諦めのソレ。
とは言え、命の危険があるわけではない。
同じ道を辿ろうと、廃車群の川を遡っていたはずだが…
道を埋め尽くす、人骨絨毯に阻まれる。
明るいうちは、無意識のうちに避けて通っていたのだろう…
暗くなってしまえば、数メートル先を照らすだけのライトでは、何も見えないのは道理だ。
まるで詰将棋の様に、人骨の駒に追い詰められてしまった。
……まぁ、こういう時にやることはいくつかある。
1.人骨を気にせず踏み割っていく。
2.ここで一夜を明かす。
3.近くの建物でどんちゃん騒ぎ
4.うっひょぉぉぉ!
5.今から考える。
まぁ、3だな。
なによ4は!?
…ん、ゴホン。
さて、寝床確保ね。
理想は一軒家。
理由は…
ソーラーパネルだ。
それさえあれば電力が確保できる。
欲を言えばオール電化。
まぁ、この辺の理想の家探しは後々語ろうじゃないの…
今は、近場で夜を凌げる場所を探そうと思う。
食料やら雑貨の詰まったカートを押して、家を探す。
ススキノの街にカラカラと響くカートの音が寂しげに響く。
そして幾らもしないうちに、いくつかの候補を確認した。
一つはぽっかりと口を開ける地下鉄。
もう一つは、雑居ビル。
そして、一軒家のごとく小さな平屋建ての弁護士事務所だ。
あとは、骨に埋まって掘り出しでもしないと中に入れない。
ふむ…
まぁ、地下鉄はないな。
だって、地獄の入り口にしか見えない…
意外と知られていないが…札幌の地下鉄は広大だ。
東京や大阪ほどではないのかもしれないが…驚くほど大きい。
当然、中には人の人骨が山とあるだろう。
ただでさえ暗い夜の闇…何が悲しくて、陽が昇っても暗い地下鉄に行けねばならんのよ。
はいはい、却下。
次…雑居ビル。
うん…悪くはない。
悪くはないんだけどね…
こういうビルって、人が多く生活してるのよね…昔の話だけど。
そりゃ当然、中には一杯骨があるわけで…
探せばきっと、骨の少ない所もありそうだけど…ちょっとその手間はね…カートも押さなきゃだし…
はぁ…
結局ここしかないか…
黄砂で汚れた看板は、濁っており、ナントカ弁護事務所とか言う文字が辛うじて読み取れる程度。
う~ん…ススキノ限定?
なんていうか、札幌中央区にはやたらと弁護士事務所が多い。
アタシにはわからないけど、そんなに法律にお世話にならなければならない人がいるんだろうか? と、疑問に感じるほどの数だ。
まぁ都会程、人も多ければそれだけ問題も多くあるのだろう。
いずれにしても、今となっては法律なんて、文字通り無法だ。
…そもそも、だーーーーーーーれもいないから、ね。
法律を作って順守する意味がない。
アタシがアタシに対して法律を作って行使する?
…馬鹿かしら?
缶詰禁止法とか作ったとして………なんか意味あるのだろうか。
うん、全然ない。
はー…あほなこと考えてるアタシが一番意味がないわね。
しゃあなし、
他に選択肢もないから今日はここだな。
キィ…───
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