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「宿題どう?」 「少しやったけど難しくって。」 「そうだよな、オレも机の上に置いただけだよ。」 「僕は毎日少しずつやってるよ。」 8月の初旬、同じ小学校に通う4年生の3人がサッカーをしている。 今日も少年たちの肌を焦がした太陽はもう少しで月と交代しようとしていた。 かいが高くボールを蹴った。よしろうとこうたろうが目で追う。ボールが地面に落ちバウンドする。よしろうはまだ空を見上げたまま。そして指差して言った。 「雨が来る。」 かいとこうたろうはよしろうが指差す方を見た。 黒に近い灰色の雲がすごいスピードで雨を降らしながらこちらに向かってくるのが見えた。 3人はおー、おー、おー、と言い雨が来るのを待った。 少し先に建つマンションが強い雨に打たれて白から灰色に変わった。 少年たちの目の前まで雨が来た時に三人は雨雲と競争しようと走った。 その瞬間もうずぶ濡れで、全力で走る少年たちを濡らし続けた。 3人があきらめかけた時、急に雨がやんだ。 雨雲は少年たちの上を悠々と通り過ぎ街を灰色にしていく。 その様子をぼーっと眺めているとかいが後ろを振り返り大きな声をあげた。 「虹だ!」 3人はおー、おー、おー、と言い、大きな大きな虹を指差した。 「いつも同じ場所に虹がでるよね。」とこうたろうが言った。 「確かに!」 「うん、そんな気がする。」 「よし、行こう!」 「明日何時にする?」 「どこか分からないから早めにしようよ。」 「じゃあ7時でどう?」 「オッケー!」 次の日、自転車でいつもの場所に集まり少年たちは虹を探しに出かけた。 昨日見た虹の右側の出どころをこうたろうが持ってきた地図で確認する。 北西へ進路を決める。 出来るだけ進路からそれないように進んだ。 かなり遠くに感じたが、どこがそれなのかわからないから見逃したらいけない。 馴染んだ街をぬけ、森の前まで来た。 ここから先へはまだ3人は行ったことがない。 当然少年たちに回り道をする考えはない。 この森の中に虹があるかもしれない。 そして森を進む方が楽しそうだから。 考えていた以上に森は険しかった。 ほとんどを自転車から降りて進んだ。 木々で夏の太陽が遮られ日陰を進んだものの少年たちは汗だくで、顔や腕には草や葉っぱがついていた。 途中小さい川にかかった橋の上で休憩することにした。もうお昼過ぎだ。 橋の隅に座り川を眺めながら森に入る前に買った麦茶を回し飲みする。 よしろうがリュックサックから8本入りのスナックパンを出した。かいもリュックサックから出し、「オレもスナックー、でもチョコ。」と言った。 「おー、それもうまいよな、少し交換しよう。」 よしろうがそう言うと、 「待って待って、僕は野菜!」 こうたろうが嬉しそうにスナックパンを出した。 「おとなー、でもそれも美味しいよな。」 「パーティーだ、パーティー、スナックパーティー!」 「こんなこと家でできないもんな、王様だ、オレたち王様だな。」 「うん、森の王様だね。」 「じゃあ乾杯しよう!」 3人はスナックパンで乾杯した。 3種類を一緒に口に入れてみたりもした。 お腹いっぱいになるとまた自転車を押しながら歩きはじめた。 結局森ではほとんど自転車に乗ることができなかったため、抜けるまでにかなりの時間がかかった。 そして虹も無かった。 もう一度地図で方角を確認し、知らない街を自転車で走る。周りを注意深く見ながら時には自転車を止めたり戻ったり。 3人はとうとう海まで来てしまった。もう太陽はかなり低くなっていた。 目の前には砂浜と海。 これ以上は行けない。 いつも元気な少年たちもなんだか疲れてしまった。 自転車から降り、砂浜に座りただ水平線を眺めた。 波の音が聞こえる。 風の音が聞こえる。 波の音が止む。 風の音が止む。 海の上にみるみるうちに黒い雲が出来上がっていく。 「おー、なんだあれ!」 かいが声をあげる。 少年たちは立ち上がった。 その黒い雲からは大粒の雨が降り出しこちらに向かってくる。 3人は砂浜のすみにある小屋へと走った。 雨はもうすぐそこまで来ている。 よしろうが扉を開けなだれ込む。 物置きか何かだと思った小屋にはおじいさんがいた。 「なんか用か?」 「いや、すごい雨で。」 こうたろうが小さい声で答えた。 「すぐ止むからそこで雨雲が通り過ぎるのを待ってればいい。わしは今忙しいんだ。」 白い鳥がおじいさんの周りを飛んでいる。 おじいさんは樽の中から黄色い玉のような物を大きな大きなおじいさんよりも大きなやかんのような物に入れていた。 次に隣の樽から赤色の玉もたくさん入れた。 次々と慌ただしく入れていく。 小屋の屋根からは雨音が鳴り響いている。 おじいさんが窓から空を見る。 「おい、悪いが手伝ってくれ!予想以上に雲が早い。このままじゃ間に合わん、そこの樽から玉を取ってくれ。」 3人はわけもわからずおじいさんが指差す樽からきれいな緑色の玉を取り出し渡した。 「次はそれ、次はそれ、よし!」 雨音は小さくなっている。 3人はカラフルになった自分の手を不思議そうに見ていた。 おじいさんが部屋の隅にあるハンドルをぐるぐると回しはじめる。 屋根が開いて行く。 雨が少し入ってくるが、見上げると青空が広がってきていた。 おじいさんがやかんの下の薪に火をつけた。 火力はあっという間に強くなりやかんがぷーっとふくらんできた。 少年たちはおーおーおー、と部屋の隅にへばりついた。 おじいさんははしごでやかんの注ぎ口のような部分についた蓋に手をかけ、目を閉じてじっとしている。その頭の上には白い鳥。 やかんがさらにふくらむ。はちきれそうだ。 「おじいさん!やかん!やかん!大丈夫なの!」 よしろうははしごの上のおじいさんに向かって叫んだ。 おじいさんは開いた右手を少年たちに向け、静かにするよう制した。 数秒後、おじいさんは勢いよく蓋を外した。 その瞬間雨が止んだ大空に向けていっきに飛び出した。 「おーおーおー、え!なんだ!なんだ!」 三人は外へ走り出した。 「おーおーおー、虹だ!」 「うん、虹だー!」 「すげー!」 おじいさんが虹を見上げながら出てきた。 「うん、今日もいい虹だ。ありがとう、助かったよ。」 三人はおじいさんの虹色になった顔も気になったが、それよりその後ろで虹を登って行く白い鳥に目がいった。 「おじいさん、鳥が登って行っちゃうよ。」 「あーあいつはいつもそうなんだ。楽しいらしい。下から見た方が綺麗なのになあ。」 少年たちは虹を見上げた。 白い鳥はちょこちょこと登って行く。 夕陽に照らされた虹はますます綺麗に輝いていた。
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