#2 英二と僕

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#2 英二と僕

英二と僕の家は近所で、子供の時からいつも ずっと一緒だった。 セミ取りに行ったり、プールに行ったりして 近所の子供達みんなで、たくさんの思い出 を作った。 そんなある日、英二は言った。 「俺、圭大と一緒の中学には行かないんだ」 「え、なんで?」 当然、一緒の地元の公立中学へ行くと思って いた僕は、驚いて言った。 「受験して、合格したんだ。もう”あいつ”と 同じ学校は、嫌だから。」 ”あいつ” 僕は、すぐに事情を理解した。 「そうなんだ。良かったね。」 思いとは裏腹に、伝える言葉が白々しい。 でも、英二の為にはそれがいいもんな。 僕が、寂しくても・・。 ”あいつ”とは、近所に住む一つ上の悪ガキ だった。 なにかと英二に声をかけ、意地の悪い事を、 命令したりするヤツだった。 ある時は、木の上に、英二の帽子を取って、 ひっかけて、返さない日があった。 僕は、あいつが帰った後、止める英二を 下にのこして、木に登り見事、英二の 帽子を、奪還(だっかん)することができた。 「ありがとう。」 ほっとした様子の英二を、みて嬉しかった のと同時に、あいつから英二を守るために、 もっと強い男にならないと勝てない、 と、心密かに、決意した。 これが、柔道を始めるきっかけになった。 「でも俺、本当は圭大と離れたくないんだ。  だから、いつかまた一緒の学校へ行こう」 「うん。」 この時の約束が、4年ぶりに、こうして 果たされた事。 満面の英二の笑顔には、そういう嬉しさが 表れていた。 でも、それ以上の大きな理由があったとは、 その時の僕は知る(よし)も、なかった。 そしてその後、父が亡くなり、僕は、勉強も 柔道も頑張り、全国的な成績を残し続けて、 英二の紹介もあって、特待生という形で同じ 学校に、英二と通えることになった。 勉強の環境も、柔道の環境も私立高校は、 本当に、恵まれた設備がある。 僕は、せっかくもらったチャンスだから、 しっかり、勉強やクラブを頑張ろうと、 意気込んできた。・・・はずなのに。 あの日以来僕は、何をしていても、委員長の 顔がちらちら浮かんで、ついには、何も、 手に、つかない状態になった。 「ヤバい。なにこれ?」  初恋は、中学生の時。 クラスの女子、美緒ちゃんだった。 めがねで目立たない僕に、優しく声をかけて くれて、すっかり舞い上がった記憶がある。 何も起こらず、終わった初恋。 でも、長谷川君の顔や声を、思い出すと その時よりも何倍も、胸が高鳴り、 収まらない。 「なに?どうかした?」  図書館で一緒に勉強していた英二が、 ノートから顔をあげ、僕に声をかける。 「いや。いや。何でもない。」 僕は、慌てて、否定する。 ・・・・そんなはずない。 だって委員長は、男なんだから。 なんかの間違いだ。 繰り返し否定しても、無意識に浮かんでくる のは、あの笑顔や声や、あの日の鮮烈な 姿だった。 なんなんだ!?僕は。どうしたんだ。 どうしょう? これから、せっかくの新生活。 このままの実績を積んでいければ、高校だけ でなく、大学の学費も、免除になるかも、 しれない。 まだ妹もいるから、自分自身の力で、母親を 楽にしたいと、願っているのに・・。 そして、ある日。 そんな状態の中、僕は、ある衝撃的な話を、 耳に、することになった。
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