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「写真、撮ってもいい?」
お兄さんは不意にそう言った。びっくりしたように蓮は目を見開いたが、あたしの方をチラッと見てきて、すぐに頷いた。
あたしもいいよ、という目線を送った。どういう訳か、あたしは蓮みたいに言葉が話せない。
あたしは写真が撮られるのは得意。毎日のように蓮はあたしの写真を撮るし、一部ではアイドルなんだ。『エブリスタ☆アイドル』っ言われてるんだって。ついでに言えば、写真集だってあるらしい。あたしの写真を見てみんなが癒されて、笑顔になる。それって、凄く嬉しいの。そう、ゆめの仕事はみんなを癒すこと!
お兄さんは見たことのない大きなカメラでカシャカシャとあたしを撮りだした。
お兄さんの視線は凄く優しくて、ホッとする。あたしは人から向けられる視線に敏感だ。優しいとか、あったかいとか、悲しいとかすぐ分かる。──お兄さんは優しい視線。さっきとは違う。
あたしは得意になってカメラに視線を送り続けた。
しばらくして蓮とお兄さんはまた少し会話を交わして、写真を見せてもらっていた。あたしからは見えないけれど、このお兄さんならきっと可愛く素敵に撮ってくれると確信した。
「いかにもゆめって感じです」
「ゆめ?」
お兄さんは少し首を傾げたけど、名前と分かってくれたみたいで、あたしの名前を呼びながらわしゃわしゃと撫でてくれた。不意打ちでちょっとびっくり。
『ゆめ』という名前は蓮とちぃ兄やお母さんたちが考えたらしい。
あたしはみんなの「夢」らしい。ずっと、蓮とちぃ兄は犬が飼いたくて、あたしを家族にしたって聞いた。でも、よくわからない。あたしの記憶の中の家族は蓮やちぃ兄で、親はお母さん、お父さん。そしてササミをくれるおばあちゃん!
それにあたち、犬じゃないと思うんだけど……蓮たちと同じじゃないの?
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