佐藤さんとサト君

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「高校はスレた性格がいくらかマシになったのもあって普通に友達ができたしなんもなかった。その頃には霊に関することで困った事もなくなって、いつの間にか連絡取ることはなくなってたな。大学には行かないでフリーターしながらその日を食いつなぐ生活をしていた時、バイト先の会社が大阪に移転する事になって辞めることにした。そしたら会社の人も自分達の都合で辞めるからって気を使ったのか、知り合いが経理担当を一人欲しがってるから面接に行ってみたらって紹介してくれたのがここだったんだ。ま、入ったら経理よりも探偵手伝いの方が多くて実質そっち専門になってるけどな」 『ふーん。連絡取ってなかったのに佐藤さんのところで働く事になったとか、ちょっと運命的なもの感じるね』 「やめろよ気持ち悪い」 『別にそういう意味じゃないんですけど』 「いやわかってるけど響きがさあ……年齢差は別にいいからせめて女だったらそういう言い方でもいいんだけどな」  ぶつくさ言いながら外回りの準備を始める。今日はまた浮気調査で旦那の行動を尾行して写真を撮るというものだった。夜遅かったり泊まりが多かったり、怪しい行動が多いので調べて欲しいという。  仕事終わりから尾行をするので男の最寄り駅に移動をするが、そこは今しがた一華に話していた場所に近い。一華に一言断り、その場所へと向かった。どうせ進行方向は同じだ、少し回り道になるだけで。  途中、あの病院があった場所に行けばそこはきれいなマンションが建っていた。マンション敷地内には遊具があり親子が楽しそうに遊んでいる。 『ここですか? その場所って』 「ああ、小奇麗になったもんだ」 あれから十年以上たっているのだ、町が生まれ変わるのは当たり前の事。嫌な気配はしないし楽しそうな親子の笑い声がするだけだ。  そのまま駅に向かおうと歩き出す。この時間にいるならおそらく幼稚園に入る前の三、四歳児だろう、きゃっきゃと喜びながら遊んでいる。そんな子供達の会話が耳に入った。 「ねーしってる? おばあちゃんがいってたけどここっておばけがいるらしいよ」 「へー、どんなおばけ?」 「ようかいクギバット」 「……」 『……』  口元を引きつらせながら、こめかみに青筋を立てながら中嶋は足早にそこを立ち去った。一華は口元を押さえているが完全に笑い声が漏れている。  あの夜近隣住民に見られたのだろう。しかもご丁寧に中嶋がバットを振り回す姿だけ。十年以上も新たな都市伝説として語り継がれていたようだ。  絶対、絶ッ対に今度佐藤が帰ってきたら殴る。そう心に誓って中嶋は駅へと向かった。 END
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