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すると殴られた痛みとぐちゃぐちゃになった生活に怒りや悲しみや憎しみやぶっちゃけなんかもうどうでもよさそうな感情が爆発したらしい女性が、何もかもこいつのせいだとのびている男性の恨み言を言い始めネクタイを首に巻いて思いっきりぎゅーっとし始めたので、一華は慌てて男性に憑依した。
意識を共有させた途端息の出来ない苦しさと、男性にボコボコにされた顔やら腹やらいろんなところが痛く、カンベンしてくれと泣きたくなる。
それでも男性を死なせるわけにはいかないと死に物狂い……いや、己はとっくに死んでいるが、とにかく思いっきり暴れたら女性は弾き飛ばされて床に転がった。あー助かったと溜息をつけば女性は何かを叫びながら鞄から大きなハサミを取り出しこちらに向けて「ちょっといいですか、今からこれで貴方を刺しますよ」という構えで睨みつけて来る。
そのハサミでかすぎる。え、何それ裁ちばさみ? 文房具のハサミじゃないよねハンドメイド職人ですか? あの切る部分を刃渡りと言うならおよそ二十センチはある。あれ、根元まで刺されたらいろいろと臓器に達する長さじゃないですかねと内心冷や汗をかきながら思うが今つっこむことはそこではない。
どうしてくれよう、この状況。
旦那にばれた、お前のせいだ、私の生活は終わりだ、訴えられる、みたいなことを言ってるようだが一華はそれどころではない。
まずここで憑依をやめれば男性は死ぬだろう、間違いなく。殺人事件はやばいし、死んで幽霊になった男性に一華が八つ当たりされるのは目に見えている。節操なさそうだし今度は私がヤられるかもしれないと一応自分の身の危険も考慮する。
今はとにかく女性を落ち着かせるしかないのだが、ここで何を言っても火に油、キャンプファイヤーにガソリン、三秒クッキングになるのは目に見えている。中嶋ならどうするだろうか、上手い事言って煙にまいてその場から逃げられそうだが自分にそんなスキルはない。
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