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「君のその能力を買って手伝って欲しい事がある。もちろんタダとは言わんよ、今回は簡単な仕事だしそれ相応の報酬は払う。まあ小遣い稼ぎだと思ってくれ。ちなみに前金一万、成功したらプラス二万ね」
「話聞いてから決める」
「おう、もちろん。よろしくねサト君」
こんななんでもない事のような、しかし普通ではありえない出会いをしたのだ、中嶋聡と佐藤一郎は。この時中嶋少年はこの男とはこれっきりの付き合いだと思っていた。話を聞いて、そのまま退散でもいいかとも思っていた。齢十四、良くも悪くもまだ子供という年齢が故これくらいの判断が精一杯だったのだ。
こういう時、話を聞くだけでは済まされないのが当たり前なのだが。
「いやー、人の住んでない建物に誰かいる気がするって近所の人からクレームが凄いからっていう自治体の人からの依頼でね。カメラ、ボイレコで数日間張り込みして調査する事になったんだ。で、問題の建物がここ」
ペラペラとしゃべりながら案内した先は、数年前に潰れた病院だった。夜中の十二時という事もあり物凄い威圧感がある。さすがにこれには中嶋も何も言えず、今すぐ帰りたいと思わせた程だ。今更幽霊が怖いわけではない、無数の霊の気配を感じたのだ。
「何回か見たけど生きた人は出入りしてないよ。生きてない人ならたくさんいるみたいだけど」
何やら準備をしながら指差された場所を見れば、老人がトボトボと玄関ホールへ向かって歩いている。もちろん中嶋の目にはそれが幽霊だとわかる。
「はい、コレもって」
なんでもない事のように渡された何かを受け取り、それに視線を落とす。渡されたのは大量に御札の貼られた釘バットだった。札を固定する為に釘を打ち込んであるようだが、どう見てもこれからどこかにカチコミに行く武器にしか見えない。
御札がついているので何をするかはなんとなくわかったが、佐藤を静かに見上げながら上下に数回素振りをする。
「……これでアンタを殴りつけていいってことか」
「いやいやいや、ちょっと落ち着こうか。それで幽霊さんたちを成仏させて、何も異常ありませんでしたって報告するんだよ。何せ数が多くてね、僕一人じゃ時間かかるから。君ならちゃんと見えるでしょ?」
「地上げ屋だってもうちょっと平和的手段取るだろ」
「相手は幽霊だから普通のやり方は通じないよ。話し合いで成仏するならこの世に幽霊なんていないだろ。さあ、気合入れて行こうか」
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