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身長が平均より低い事を気にしている中嶋はこめかみに青筋を立てながら怒鳴った。とても恐ろしい何かから逃げているとは思えない緊張感のなさだが、悪寒はまだ続いているのでピンチには違いない。
佐藤がブツブツと何かを呟くと背後から動物のような赤ん坊のような、なんとも言えない叫びが轟く。
「ッ! 何やったんだ」
「ファイガとかメラゾーマとかそんな感じの事」
ゲームやらないから知らないと言おうとしたが、後ろから続いて地を裂く様な怒号が響く。ビリビリと全身に電流のようなものが走り、ブワっと鳥肌が立った。先ほどよりも強烈な悪意が辺りに広がるのがわかった。
「あ、やばい怒っちゃった」
「そりゃいきなりメラゾーマやられりゃブチ切れるに決まってるだろ! つーかいい加減おろせよ走れるから!」
「ちょっと待ってね」
再び何かを呟き始め、それを唱え終わると立ち止まって中嶋をおろした。口元に人差し指を置きしゃべるなというジェスチャーをすると、近くの病室に入りドアの横に立って様子を伺う。
するとすぐにべちゃ、べちゃ、という足音のようなものが近づいてきた。近づいてくる異形の気配に中嶋は震えが止まらない。恐怖からの震えではなく寒さによるものだ。まるで真冬のように手足が冷たく体中が痛い。今まで見てきた事故死して気づいていない霊や、自分が見える人間だとわかってしつこくとりつこうとしてくる鬱陶しい霊とはレベルが違う。
その何かは部屋の中には入らず、ゆっくりと中嶋たちの前を通り過ぎていく。しゃべるなというジェスチャーから、おそらく音を立てなければ見つからないのだろう。先ほど何を唱えたのか知らないが、姿が見えなくなるとかバリヤを張ったとかそんな感じだろうかと思う。
廊下を進みながら、その先は階段があるのでそのまま上か下にでも行ってくれれば、と祈るような気持ちでじっと堪える。
ぐーきゅるるる……
「……」
「……」
佐藤の腹が盛大に鳴った。
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