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あまり相手を認識したくないが仕方ない。しかし幸いにも何なのかははっきりと見えなかった。何か巨大な塊があることしかわからない。……ただ、いくつも人間の手足が生えているが必死に考えないようにした。あれはそう、きっと……新芽。
(どういう新芽だよ……)
さすがにねえな、などと自分でつっこんでしまう。
それを確認した佐藤は小さく笑って頷くと、その場で急旋回をして追ってきている何かに向かって走り出した。そして勢いよくジャンプをすると、壁を蹴って大きくそれを飛び越える。まるでワイヤーアクションでも見ているかのような大胆な動きに釘付けとなった。
会った時からおっさんを連呼していたが、先ほど逃げてきた時の脚力といいこの動きといい、とてもオヤジの動きではない。いくら自分が平均より少し、ほんの少しだけ小柄な体型だったとはいえ五十キログラム近いものを抱えて普通に走っていたのだ。スタントマンでもない限りあの年でそんな動きができるはずがない。
二手に分かれた獲物にソレは一瞬動きが止まったが、目の前にいた中嶋に目をつけたらしくゆっくりと近づいてくる。しかしすぐにその動きが止まった。
一瞬逃げようかと身構えた中嶋だったが、止まった事に気づき一応指示通りそのまま鏡を持って立ち止まっている。するとソレは突然悲鳴のような声をあげその場で暴れ始めた。どうやら苦しんでいるらしくじたばたともがく様子が伝わってくる。
「意外と粘るな……サト君、今から言う言葉一緒に言って貰っていい?」
そう言うと聞いた事のない不思議な言葉を言い始める。一応言われたとおりその言葉を間違えないよう気をつけながら唱えた。やがて黒い塊がビクビクと震え始める。何となく嫌な予感はしたが、何もわからない中嶋にはどうする事もできない。
そして。ブチ、という音がしたと思った瞬間。目の前のモノが勢いよく弾け、予想以上の衝撃と突風に中嶋は吹き飛ばされた。背中からもろに着地をし、痛さで立ち上がる事ができずその場で仰向けでいると佐藤が駆け寄ってきた。
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