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望月優の秘密
「おい、何の話だよ。山田をブチのめすって話だろ?」
俺は不良グループの一人に胸ぐらをつかまれる。
不良グループに殴られそうになる俺を見ると、優君がさけぶ。
「僕は......望月優だ!」
そして、優君が小さな声で続ける。
「そう……。望月組の組長の一人息子だよ」
不良たちが息をのむ。「やっぱり…」と言っていそいそと、走って逃げていく。
優君がヤクザの息子!? 全然想像がつかない。優君が悲しそうに僕を見る。
「幻滅させちゃった? そうなんだ。僕が生まれてすぐに離婚したんだけど……。笑っちゃうでしょ? 今時、ヤクザとかいって」
そんな隠したいことを、優君は僕を助けるために言ってくれたんだ。俺は大きく、首を振る。
優君が続けて、俺に話してくれる。
「母さんが、すごく苦労したみたいで。だから……、僕は暴力が大っ嫌いなんだ......」
優君は俺を守るために、話したくもない真実を話してくれた。
だけど、俺は......暴力が嫌いな優君に、本当のことは話したくない。優君に......嫌われたくない......。
次の日の朝、家の扉を開けた先に、優君はいなかった。いつも待っていてくれるのに。ちょっと気まずかっただけだ。きっとすぐに、元に戻れる。
教室に入ると優君がポツリと席についていた。俺は優君の姿を見てホッとする。
だけど、いつもと教室の空気が違う。優君の周りに取り巻きがいない。
黒板を見ると、「望月優はヤクザの息子」と書かれている。
誰の仕業だ!?
俺は黒板の文字を慌てて消す。もちろん、俺じゃない。どこから漏れたんだ。
俺は翼に問いかける。
「おい、これ、誰の仕業だ!?」
「いや、分かんないっす。でも、望月のことを、やっかむヤツは多いから」
そうか……、そもそも、別の街のやつが優君と望月組の繋がりを知っていたんだ。他から、漏れてもおかしくない。
だからって、この教室の空気。ひどすぎるだろう。俺は叫ぶ!
「おい! お前ら手のひら返しかよ! 優君は優君で変わりがないだろ!? なんで、そんな態度がとれんだよ! ビックリしてるだけだよな!?」
クラスメートたちがボソボソという。
「だって、ヤクザって…。漫画とかドラマならともかく、実際は怖いし」
俺は続けて叫ぶ。
「だから! 優君にはカンケーないだろう!? 優君自身には!」
「やめてよ! やめて! タカシ君」
優君が俺の方をにらんでいる。え? なんで?
「やめてよ、タカシ君……。疲れるんだよ……。タカシ君の存在が!」
え? 望月君?
「僕は、そもそもタカシ君の思っているような人間じゃないんだ。嫌いな奴だっているし、マイナスなことも考える。タカシ君は、ただ僕のことを買いがぶっているだけだよ。距離が近すぎるっていうか。本当に疲れるんだ」
「疲れる?」
「そう。タカシ君の思っているような人間を演じることに、疲れるんだ」
俺は驚く。優君は演じてなんていない。子供のころから根っからの天使だ。
「演じてなんか! 優君は子供の頃からずっと変わらないよ。優君と一緒にいるから、俺はあっという間にクラスに馴染めたんだ。前の学校でなんか、全然うまくいかなくて! 俺は優君がいるから毎日が楽しんだ!」
「違うよ…。それこそ全部タカシ君だからだよ。僕は関係ない」
「違う! 優君が優しいから!」
「そういうところだよ!!!」
優君が涙目で俺を見て叫ぶ。いつも、穏やかで笑顔の優君が……。俺に向かって大きな声を出している。
「今日は、もう帰る。先生には言ってくるから」
優君がそう言って、教室を出ていく。
とても優君を引き留められる雰囲気ではなかった。
授業も何も入ってこない......。
教室の机でうつ伏せになっている俺のところに、翼が、やいの、やいの元気づけようと、騒いでいるが、それも、まったく耳に入ってこない。
「くっそ! 望月のヤツ、山田さんに良くしてもらってるからって、調子にのりやがって!」
そう、翼がいった瞬間に翼をにらみつける。翼が慌てる。
「す、すみません!!!」
俺は、ハッとする。
「……、いや、ごめん……。こういう、ことろだったかも……。優君が疲れちゃうの…」
涙が溢れてくる。
「山田さんー!!! しっかりしてくださいよー!!!」
もうダメだ。
屋上で一人で、ボーっと購買のパンを食べてると、草間が隣にひょっこり座る。
しばらく、となりに座ったままで、何も言わない。
でも、ボソリと草間が口を開く。
「私……、言ったじゃん?」
「何を」
「言ったじゃん。優君、優君、そればっかりだって」
「お前だってそうだろ。優君のこと、ずっと好きなんだろ?」
「違うよ……。全然違う。ほら、やっぱり。何も見えなくなってるじゃん。見ようともしないじゃん」
「遠まわしで、何いってるか、わかんねー。口から生まれたみたいに、ベラベラしゃべって、うるさいヤツだったのに」
「私の事…覚えてるの?」
「そんくらいはな。うるさかったわー!」
少しだけ、草間が笑った気がした。そして神妙な面持ちで、俺に言う。
「誰かをさ、神格化して、誰かのために生きる方が楽なんじゃん? 自分を生きるよりさ」
「……。グサっとくるわー。お前、なんか結構、しっかりしてるんだな」
「怒るかと思った」
「いや、そういうところ、スゲーあったかも……。ずっと、ずっと優君に甘えてたのかも。優君のいない10年間も。俺…、優君、優君言うのやめる」
優君は俺を守るために、俺に嫌われる道を
……、
俺だけじゃなくてクラスのみんなに嫌われる道を……、
選んでくれたのに。
優君、優君、優君、言ってて、俺は結局、自分の事ばっかりだ。
俺は立ち上がって、拳を掲げる!
「俺は、俺を生きることにする!!!」
草間が笑う。
「単純でいいよねー!」
そこへ、屋上に翼が息を切らして走ってくる。
「山田さん! 望月が隣町の不良グループに絡まれてるって」
「はあ!? クッソ! 草間、俺、早退するわ! 先生に言っておいて! 翼、どこか教えろ!」
「ちょっと!」という草間の声を後ろに駆け出していく。
息を切らして走っていくと、人気のない公園で望月君が囲まれている。前に絡んできた不良グループだ。そこに割って入る。
伊達眼鏡を投げ捨て、髪をオールバックにする。
優君を守るためなら、優君に嫌われてもいい!!!
優君がしてくれたように!
もうバレたっていい!!!
何をしようとも、俺が元ヤンな過去は消せない。
それ含めて俺だ!
「おい! お前ら、優君に何手だしてるんだよ! 望月組のご子息だろ!? 大丈夫なのかよ!?」
不良の一人がいう。
「ヤクザって言っても、もう、そんな大したもんじゃないだろ? むしろ望月をしめたら、名が上がるかなって思って」
「そんなことばっかし、考えてお前らバカなのか!?」
「お前だって、そういうタイプだろ?」
優君が不安そうに、俺の方を見る。
「タカシ……君?」
「優君、ごめん! 俺、優君と会えない間に、めちゃくちゃヤンキーになっちゃったんだ! 優君に嫌われたくなくて、黙ってた。優君は俺を助けるために、真実を言ってくれたのに!」
「ううん……。僕もタカシ君に嫌われたくないから。だから、演じてたんだ。タカシ君が好きな僕を。なのに、タカシ君のせいにして、ひどいこと言ってごめんね。あんなに言いたい放題いったのも、タカシ君に甘えてたからだ。本当にごめんね!」
不良グループの一人が苛立っている。
「ごちゃごちゃ、何話してるんだよ」
不良たちが大勢で殴り掛かってくる、優君を守り切れない。
ていうか、俺が殴られそう! 対応しきれない!
俺は殴られる覚悟を決める。
すると優君が風を切るように、俺を守るように、不良たちの前に立ちはだかる。
そして、俺を殴ろうとしたヤツの顔を、なんとも美しいフォームで殴りつける。
そして優君が拳を握ったまま、言い放つ。
「タカシ君を傷つけるヤツは、俺が許さない!」
ゆゆゆゆ、優君!?!? 風になびく髪がめちゃくちゃカッコイイ!
そんな優くんが俺に説明する。
「ごめん、僕、たまに会うたびに親父に鍛えられてて……。暴力、嫌いなんだけど」
優君、やっぱり凄すぎる! 俺は笑い出してしまう。
「優君! 大丈夫! 暴力じゃない! これは正当防衛だ!」
優君と俺はニヤっと笑って、あっという間に不良たちをブチのめす。
――――
それから俺たち二人の噂はあっという間に、街中に知れ渡ってしまった。
学校生活が危うくなるので、二人で秘密にできることは、できる限り秘密にすることにした。
優君にバレてしまった今も、髪を下して伊達眼鏡のまま学校に行っている。
女子達は現金なもので、望月君のヤクザの息子疑惑が収まったら、元通りだ。
そんな女子達を俺は、また追い払う。
「お前ら、優君に近すぎるだろ!」
「山田の方が邪魔でしょ!?」
「俺は、お前らみたいに、下心で優君を見ていない!」
「いやいや、常に十分キモイわ!」
キャッキャ、みんなで笑う。
草間も側にいて、ゲラゲラ笑ってる。
俺はそういえば、ちょっと気になることがある。
「てか、草間さ、なんで、そんなに俺の周りチョロチョロしてんの?」
優君が、草間を不憫そうにみる。
「クララも、苦労するよね」
「え! 優君、草間のこと下の名前でよんでんの! 草間! クソッ!」
翼までなんか言ってくる。
「山田さん、そりゃないっすよ! 草間があんまりっす!」
は!? 何言ってんの!? 他の女子までなぜか冷たい目で俺をみる! 何!? 草間が優君からクララって下の名で呼ばれてることでなく!?
草間がわざとらしく、泣きまねのようなそぶりをしている。
「私、割りかし言った気がすんだけどさ!」
みんなが、草間に抱き着く。なんなの!? 「山田、サイテー」とまで言ってくる。女子の結束怖い!
まあ、何だか分からないけど、俺と優君の楽しい日々はこれからも、ずっと続くからいいや!
俺を生きることにしても、俺が優君好きには変わらないから!
あっ、今日はダッシュして、優くんの好きな購買のパン、ゲットしよ!
優君と俺の話は、これでおしまい。
特別にヤンキーに絡まれたら、俺、山田隆のところに相談に来てもいいぜ? 最強の優くんもいるしな。だけど、ナイショで頼むな。
山田隆でした! じゃあな!
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