あー、あの日の わいの冒険 1年生 その9 「それぞれの運動会」

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 運動会当日。  空は気持ちよく晴れ渡った。  1年生のダンスは比較的午前中の早い時間。  ポンポンを持って、始まりの合図を待つ。  その時、ゆたやんが声をかけて来た。 「ほら、あそこ!」  見ると、観客席の後ろ、少し離れた高台に、白い長袖シャツに、白い帽子、サングラス姿のマー君の父ちゃんがいた。黒い日傘をした、お母さんに支えられながら。  マー君を振り返ると、そちらに手を振っていた。  ピーっと笛が鳴って、わいらはそれぞれの場所に駆けていく。音楽が始まって、一生懸命おどり、みんなを応援する。コミカルな音楽やけど、気持ち的には鬼気迫る迫真のダンスをした。  そして、ダンスの最後、ちょっと場所を移動して、3人で固まってライダーポーズを決めた。  皆んな、拍手したり手を振ったりしてくれている。マー君の父ちゃんも手を振っていた。 ……良かったな、マー君。  ピーと笛が鳴る。  いつまでも固まっていた マー君の体操着を引っ張る。 「ほら、行くで!」  わいとマー君、他4名がそれぞれ、前に出て今日のダンスの感想を述べる。   「ダンス、がんばってできました」みたいなことをみんな言っていた。  そして、わいの番がやってきた。 「とうちゃんみてる? わいの とうちゃん よく がいこくいくから、だいじなときにいないんです。だからよう見とってやー」  と言って、とうちゃんに手を振る。  そして「変身、トウッ」といってマイクを置き、わいは仮面ライダーの変身の真似をして最後にポーズを決めた。若干の笑い声と。「ええぞ、ボウズ!」とちょっとだけヤジが飛んで拍手が上がる。うちの家族も、みんな笑っている。ヨシッ! と笑い声に手応えを感じ満足して、わいは マー君にマイクを渡した。  マー君はマイクを受け取ってしばらく俯いていた。そして、顔をあげた。  そのまま、沈黙が続く。  横を見ると、マー君は泣いていた。 「頑張れー!」と誰かが言った。  やがてその声は、周りに伝播し「頑張れー」の合唱になった。  マー君は、マイクに「うん」とだけ言うと、マイクを置いて、わいと同じように仮面ライダーの変身の真似をして最後にポーズを決めた。  そして、拳を握り締めて振りあげた。  大きな拍手とともに、誰かが「ウォー」「よくやった」と声をあげる。そして観客の向こう、マー君のお父さんも拳をにぎり片手を振りあげポーズを決めていた。  そんなお父さんを、マー君はじっと見つめている。  ピーっと笛が鳴った。  マー君は一度俯いたあと、 「サンクス!!!!」そう思いっきり叫んで駆けて行った。  わいも、みんなもその後を追いかけ退場していく。  ……ダンスもええな。  わいはその後を追いかけながらそう思った。 Fin
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