その夜

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その夜

 帰ろうとしたが一応問題解決をしたからと夕飯をご馳走になることになり、酒が入り大広間で大宴会状態となった。中嶋は酒に強いらしくいつもとまったく変わらない状態だったが、総弦は酒にめっぽう弱い、そのくせ飲みたがるもので完全に悪酔い状態だ。一番の被害者は一華だった。 『くっさ! 総弦さん酒臭い!』 「酒飲んでるんだからあったりまえだろーが! 成仏しろこの悪霊ー!」  言いながら清酒を口に含んで思い切りブーっと吹きかける。 『ぎゃー! 汚い、汚いから!』 「おかしいな……ザコ霊ならこれで片付くのに」  一華は幽霊になってから同じ幽霊以外に嗅覚が働かない。例えば動物霊が近くにいると獣臭を嗅ぐ事はあるが、中嶋たちがカレーを食べようが鍋をつつこうがその香りを嗅ぐ事はできないのだ。  しかし総弦は法力があり霊に直接影響を与えることができるため、総弦の飲食したものなどは一華にも影響が出るらしく酒の匂いに顔を顰めていた。当然今の酒シャワーも実際にかけられた感触があり、しかしタオルなどで拭く事もできないのでどうする事もできない。中嶋は清酒を飲みながら素朴な疑問を投げかけた。 「一華、お前酒飲んだことないのか」 『あるわけないでしょ!? 未成年ですよ私!』 「真面目ちゃんだなあ、俺は高校入る頃には行きつけの飲み屋があったぞ。まあ法律厳しくなる前だからできた事だけどな」 「あ、私もそうだな。ついでに飲み終わった酒瓶でヤクザの頭かち割ってお巡りさんとヤクザに捕まりそうになったことあるよ、まあ逃げ切れたけどね」  あっはっはと笑う中嶋と清愁に一華は頭を抱える。 『あああああ! この場にまともな人いないし!!』 「幽霊のお前が一番まともじゃねーっつーのー」  総弦が据わった目で何か印を結び始め……たところで清愁の蹴りが総弦の鳩尾にきれいに入った。 「ぐっ」  小さな悲鳴がもれ、そのまま床に沈みピクリとも動かない。とても中年とは思えない素早い蹴りに総弦は避ける事も、そもそも蹴られる事に気づいてもいなかった。酔っているから反応が遅れたという事を差し引いても今の動きは呆気にとられる。
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