その夜

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「総司は双子だったんだけど、生まれた時に難産でカミさんと兄弟の方は死んじゃってね。あんな体質で友達もいないし、私も親父も忙しくてずっと一人でいることが多くて。ある日たまたま来たサト君が気づいたんだよ。総司に双子の兄弟……青磁(せいじ)の魂が入り込んでることに」  幼い息子を放っておくことはしたくなかったが、寺の財政状態というのは本当に厳しく保育園に入れる余裕もなかったという。これから小、中学とあがっていく事を考えて貯蓄をしようとがむしゃらに修行をして働いたが、それが結果的に息子を長い間一人にしてしまった。  霊との付き合い方を教えようにも幼い子供にそれが理解できるわけもなく、当時は霊と生きた人間の区別もついていないような状態だったので説明のしようがなかったらしい。 「不思議には思ってたんだ。いつも一人でいるのに寂しそうな様子もないし、たまに独り言いうけどまわりに霊はいない。一人遊びが上手い子なんだろうと勝手に思ってた。そしたら肉体の中に青磁がいるって言うじゃないか。気づかなかったよ、二人は双子だったこともあって本当にそっくりだったんだ。日替わりで入れ替わってたらしい。親としては失格だ」  ははっとおかしそうに笑う清愁に、一華は複雑な表情を浮かべる。今でこそ笑い話にしているが、当事は相当悩み苦しんだはずだ。 「で、ここが本当に情けない話なんだけど……青磁を成仏させることが私にはできなかった。無論成仏させてやりたい気持ちがあったんだが、総司も青磁も泣いて嫌がってね」 『それは……情けなくないですよ、親として』
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