67人が本棚に入れています
本棚に追加
「親としてはそうだが僧侶としては情けないよ。この世にとどまり続けるとどんなモノになってしまうかわからないのを知ってるのに。で、なんとかしてくれたのがサト君だったんだ。盆でもないのに無理にカミさんに来てもらって……無理に来てもらうと全身激痛ですごく苦しいらしいけど、青磁のためにって頑張って来てくれたんだ。母親と一緒に逝けばいいっていうのはサト君の案だった。最終的にはぎゃーぎゃー泣き叫ぶ総司を押さえつけながらなんとか青磁を送ることが出来たよ。青磁のことはそれで片付いたけど、今度は総司がねえ……唯一の心の拠り所を奪われてサト君を敵視しちゃってさ、石投げるわ噛み付くわ。サト君は恨まれるの承知で引き受けてくれたんだけどね。父親を憎んじゃいけないからって」
当時中嶋は高校生のはずだ。大人から見れば中嶋も子供の部類に入るというのにそんな提案をしてくれて、感情の矛先を自分に向けてくれた。清愁は感謝してもしきれないと言ってほほ笑む。
『それでサトちゃん言わないんですね知り合いだったって事。でも、今だからこそ言えばわかってくれると思うんですけど……』
「その辺はまあ、サト君なりの気遣いだろう。総司にとって青磁は兄弟ってだけじゃなく特別な存在だった。依存しているというレベルを超えて二重人格のような、自分自身とさえ思っていた節もあったからね。突っついて昔を掘り起こしたくないんだろう。今もまだ総司にとって青磁は触れちゃいかん地雷みたいなもんだ」
『その……青磁さんは、お盆には会えないんですか?』
「翌年の盆に来たカミさんの話じゃすぐに次の生へと旅立ったってことだ。子供の方が生まれ変わるの早いらしい。総司は会えるのずっと楽しみにしてたから二度と会えないのが受け入れられなくてまた喚くし、しばらく大変だった」
話を聞いた一華は言葉がかけられない。今こうして幽霊として存在していて不思議な事を体験しているが、生きていた時はごく普通の生活を送っていた。物心ついた時からそういったものを、異常ではなく当たり前に経験してきている彼らの苦しみを深く理解する事はできない。
最初のコメントを投稿しよう!