霊視

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 何も言葉を発しない方がいいのかと、緊張しながら一華はひたすら戒縁が何かを言うのを待った。  すると戒縁は右手を広げ、ゆっくりと一華の胸元……心臓だろうか? そこに手を近づけてくる。一体なにが始まるのかと身構えていたが、その手が胸のすぐそこまで来た時。 「おいこらハゲ」 「何してるんだよ」  総弦がスリッパを、清愁はなんと木魚を戒縁に向けて思いきり投げつけた。 『ええええ!?』  一華をすり抜け老人に向かっていったスリッパと木魚だったが、二方向から投げられているというのに戒縁はひょいひょいっと器用に二つとも避ける。スリッパは床に叩きつけられただけだったが、木魚は柱に勢いよく激突してそのまま跳ね返って転がっていってしまった。 「親愛なるおじい様に何をするか、この罰当たりども。特に木魚投げたそこの馬鹿、壊れたらどうする」 「何をするかじゃないだろ、まったく」  飄々とした態度の戒縁と、ため息をついて呆れる清愁。意味がわからず混乱する一華に、後ろから中嶋がぼそっと呟いた。 「霊視にボディタッチなんて必要ないし、単に胸触ろうとしただけなんじゃね」 『……』  ポカンとする一華は目の前の老人を改めてみる。人懐っこい顔、鋭い眼光……だったがいまや完全にヤニ下がったただのエロジジイがそこにはいた。 「いや、最近乳揉んどらんし。若い女の子と触れ合う機会なんて全然ないし」 「生きた女と触れ合ってろよ」 「この間三十万ぼったくられたからさすがに今はやめとこうかと」 「何やってんだよテメエは!」  祖父と孫の会話を聞きながら、一華は静かに清愁を見た。 『……あ、ついでにそれも投げてもらっていいですか』  一華が指をさしたのは本堂の中央にある立派な仏像だった。座った状態でもおそらく四、五メートルはある。 「え、これ? あー、一応これウチで一番大切なものっていうか祀ってるものだからちょっとなあ」  さすがに困った様子の清愁だったが、そんなバカでかいものを投げることに関してつっこみはないのかと中嶋は思った。清愁ならできなくはない気もするが。
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