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「君がザラムの森へ送られたのは、あそこは魔物の巣窟だったからかもしれないな。あいつらは王子のことを化け物扱いしていたから、咄嗟にあの森を思い浮かべたのだろう」
「僕がブラッディ・ハンドになっていたのは、身体がドロドロだったからなんでしょうか」
「そうだな。もっとも近しいものに擬態したんだろう。すべて無意識の行動なんだろうが、正しい判断だったんじゃないかと思うよ。それにな、魔の森へ転移したのは、君にとっては良いことだったと思う。精霊魔法は、魔物が使うちからに近いと言われているから」
古の魔法は、原始のちから。後世になって人間が作り上げたものより、魔物が本来持っている要素を過分に含んでいるらしい。
ゆえに扱いが難しいし、魔物化しちゃう人間もいたりする。
ドロドロになった僕は、自己再生をしつづけたのだろう。
魔物が住む森には、邪気が満ちている。むしろ、それしかない。精霊魔法は尽きることなく使いたい放題。
邪気を使って自分を再生しているあいだに、本来の姿を忘れてしまった。
だから、ブラッディ・ハンドのままで生きていた。
森の外へ出たことによって、邪気が少しずつ消えていく。それにともなって、僕は人間の姿を取り戻していった。
僕の身体に溜まっていた邪気はマルティナのほうへ移っていき、滞っていた治癒が再開される。
結果、身体の成長が促された、ということらしい。
邪は聖へ変換される。
魔力循環という現象だ。
たしかに、ここへ来てから毎日一緒にいた。腕相撲という名の身体接触も多かったしね。
先日の急成長に関しては、僕が魔物ではなく人間であることを自覚したせいだろうと、ヘインズさんは言った。
「今もそうだ。君はもう右半分だけの存在じゃなくなった」
「おまえの服を用意しておいてよかったよ、レイ」
僕は自分の左手を久しぶりに眺める。変な気分だ。両手を頭部へ伸ばしてみたら、そこは空洞だった。
あれ? 頭はまだないの?
「焦るな。七歳から二十歳だぞ。どんな顔をしているのかなんて、自分で想像つかないだろうさ」
「頭部をすべて覆うメットでもつけるか?」
「いや、それもどうかと思うんですが」
町中でフルフェイスのメットを被ってるなんて、コンビニ強盗みたいじゃないか。
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