10 化け物のような子ども

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「君がザラムの森へ送られたのは、あそこは魔物の巣窟だったからかもしれないな。あいつらは王子のことを化け物扱いしていたから、咄嗟にあの森を思い浮かべたのだろう」 「僕がブラッディ・ハンドになっていたのは、身体がドロドロだったからなんでしょうか」 「そうだな。もっとも近しいものに擬態したんだろう。すべて無意識の行動なんだろうが、正しい判断だったんじゃないかと思うよ。それにな、魔の森へ転移したのは、君にとっては良いことだったと思う。精霊魔法は、魔物が使うちからに近いと言われているから」  古の魔法は、原始のちから。後世になって人間が作り上げたものより、魔物が本来持っている要素を過分に含んでいるらしい。  ゆえに扱いが難しいし、魔物化しちゃう人間もいたりする。  ドロドロになった僕は、自己再生をしつづけたのだろう。  魔物が住む森には、邪気が満ちている。むしろ、それしかない。精霊魔法は尽きることなく使いたい放題。  邪気を使って自分を再生しているあいだに、本来の姿を忘れてしまった。  だから、ブラッディ・ハンドのままで生きていた。  森の外へ出たことによって、邪気が少しずつ消えていく。それにともなって、僕は人間の姿を取り戻していった。  僕の身体に溜まっていた邪気はマルティナのほうへ移っていき、滞っていた治癒が再開される。  結果、身体の成長が促された、ということらしい。  邪は聖へ変換される。  魔力循環という現象だ。  たしかに、ここへ来てから毎日一緒にいた。腕相撲という名の身体接触も多かったしね。  先日の急成長に関しては、僕が魔物ではなく人間であることを自覚したせいだろうと、ヘインズさんは言った。 「今もそうだ。君はもう右半分だけの存在じゃなくなった」 「おまえの服を用意しておいてよかったよ、レイ」  僕は自分の左手を久しぶりに眺める。変な気分だ。両手を頭部へ伸ばしてみたら、そこは空洞だった。  あれ? 頭はまだないの? 「焦るな。七歳から二十歳だぞ。どんな顔をしているのかなんて、自分で想像つかないだろうさ」 「頭部をすべて覆うメットでもつけるか?」 「いや、それもどうかと思うんですが」  町中でフルフェイスのメットを被ってるなんて、コンビニ強盗みたいじゃないか。
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