15人が本棚に入れています
本棚に追加
/64ページ
これはヘインズさんの提案。
僕が自分のことを思い出すためには――日本人の玲ではなく、王子のレーゼゲルトであることを思い出すには、王都へ行くのがいいんじゃないかって。
僕をずっと探していたサレヒトさんにも会って、御礼を言ったほうがいいとも思うんだよね。そのひとに会えば、この世界における記憶だって刺激されるかもしれないし。
「レイの家族かもしれないひとが、王都にいるらしい。ヘインズの古巣、魔法研究所だ」
「家族がいるの? 王都に?」
「ああ、だから――」
ゼクさんがマルティナを諭していると、途端にギロリと眼光が鋭くなって、まくしたてた。
「なによそれ。だったらどうしてレイレイを迎えに来ないのよ! どうして、魔物になっちゃったのに放っておいたの。それとも、なに。人間の姿を取り戻しはじめたから、もう怖くないから来てもいいよ、ってそういうことなの!? ふざけないでよ!」
「マルティナ……」
「ねえ、父さん。そんな冷たいひとのところになんて、レイレイを行かせちゃ駄目よ。レイレイはうちにいればいいじゃない、ずっとずっとうちにいればいいのよ。うちの子になればいいんだわ」
父親の腕を引いて、すがりつくように懇願するマルティナに、誰もなにも言えなくなった。
タマルーサさんがどこまで話したのかはわからないけど、僕だけがすべてを聞かされたのは、張本人だからってだけじゃなくて、マルティナへの配慮だ。
自分が殺されただなんて、知って楽しいものじゃない。怪我をしたときのことはほとんど覚えてないって言っていたし、思い出さなくていいと思う。
だって僕は覚えているから、あの痛みを。あの、ぬるりとした血の感触は、どれだけ手を洗ったところで、なくなったりしない。
あんなものより何倍も痛い思いをしたはずだ。七歳の女の子が抱えた痛みがどれほどだったのか、想像するだけで怖くなる。
「ねえ、マルティナ。違うんだよ。僕がね、行きたいって言ったんだ」
最初のコメントを投稿しよう!