10 化け物のような子ども

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 これはヘインズさんの提案。  僕が自分のことを思い出すためには――日本人の玲ではなく、王子のレーゼゲルトであることを思い出すには、王都へ行くのがいいんじゃないかって。  僕をずっと探していたサレヒトさんにも会って、御礼を言ったほうがいいとも思うんだよね。そのひとに会えば、この世界における記憶だって刺激されるかもしれないし。 「レイの家族かもしれないひとが、王都にいるらしい。ヘインズの古巣、魔法研究所だ」 「家族がいるの? 王都に?」 「ああ、だから――」  ゼクさんがマルティナを諭していると、途端にギロリと眼光が鋭くなって、まくしたてた。 「なによそれ。だったらどうしてレイレイを迎えに来ないのよ! どうして、魔物になっちゃったのに放っておいたの。それとも、なに。人間の姿を取り戻しはじめたから、もう怖くないから来てもいいよ、ってそういうことなの!? ふざけないでよ!」 「マルティナ……」 「ねえ、父さん。そんな冷たいひとのところになんて、レイレイを行かせちゃ駄目よ。レイレイはうちにいればいいじゃない、ずっとずっとうちにいればいいのよ。うちの子になればいいんだわ」  父親の腕を引いて、すがりつくように懇願するマルティナに、誰もなにも言えなくなった。  タマルーサさんがどこまで話したのかはわからないけど、僕だけがすべてを聞かされたのは、張本人だからってだけじゃなくて、マルティナへの配慮だ。  自分が殺されただなんて、知って楽しいものじゃない。怪我をしたときのことはほとんど覚えてないって言っていたし、思い出さなくていいと思う。  だって僕は覚えているから、あの痛みを。あの、ぬるりとした血の感触は、どれだけ手を洗ったところで、なくなったりしない。  あんなものより何倍も痛い思いをしたはずだ。七歳の女の子が抱えた痛みがどれほどだったのか、想像するだけで怖くなる。 「ねえ、マルティナ。違うんだよ。僕がね、行きたいって言ったんだ」
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