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軌跡
僕はベッドに入る前に日記を書く。携帯のアプリでも管理できるが、自分の手で書くのが好きだ。適当なノートと安物のボールペンで十分の、ありふれたなんてことのない習慣。その日の出来事とそれに対して何を思ったかが簡単に書かれたその日記帳が、ときどきとても勇気をくれる。
僕にとって日記を書くという行為は消化だ。朝起きてから眠る直前までの僕を振り返り書き出すことで、その一日を過去として受け入れる。そんなことをしなくても過去は過去だが、より鮮明に今日の終わりを感じることができる。
僕にとって日記を読むという行為は反芻だ。過去が今に蘇り、今日この日まで生きてきたのだと実感できる。
生きることは死ぬことだ。生の実感は同時に死を意識させる。僕にとってそれこそが勇気の根源なのだ。
人は皆もれなく死ぬ。それが明日かもしれないし五十年後かもしれない。そこに理由はない。そう思ったら心が軽くなる。必死になって守らなければならないものなど、案外ないことに気づくから。
僕は日記を閉じる。勇気と少しの希望、そして大いなる気だるさを抱えながら布団の中に入り込んだ。
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