乖離

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乖離

「おはようございます」  自分のデスクに座り仕事を始める準備をしていると、挨拶をされる。同僚や後輩、とにかく人が通るたびに何度も何度も同じ挨拶をされる。私も同じように返事をしてパソコンを起動させる。  朝は孤独感がいっそう深くなり、心が冷めていくような感覚がする。朝日に照らされて動き出した町にはたくさんの人が溢れていて、騒がしい。見渡す限りの他人がそれぞれ目的地へと向かう。  そして会社に着けばご機嫌取りの「おはようございます」が待っている。その言葉の中に「今日も頑張りましょう」とか「ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします」といったポジティブな気持ちなんて存在しない。あるのは事なかれ主義の保身だけだ。  多くの人に囲まれることで、そのひとつひとつがいかに薄っぺらいものかが分かるようになる。今朝、挨拶を交わした人の中に私という人間に興味がある人はどれだけいるだろう?  私は何度だって世界から切り離される。「おはよう」と挨拶を交わすたびに。
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