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体が重い。何もやる気が起きない。
失恋して空っぽになった私を気遣って、千香が外に連れ出してくれた。今はこぢんまりとしたカラオケボックスの中。気持ちは嬉しいけどやっぱり歌う気分にはなれなかった。そんな私とは対照的に、千香は楽しそうに曲を選んでいる。
……ここのカラオケ、アキくんとよく来たな。いっつも同じ曲ばっかり聞かされて文句言ってたころが、こんなにも懐かしくなるなんて。
あからさまに沈み込む私に見かねた千香が口を開く。
「いつまで落ち込んでるのー? 切り替え切り替え!」
「そんなこと言ったって、ムリだよ……」
眉をつり上げた千香が顔をずいと寄せ、ほっぺたをむにむにと触ってくる。
「あのねぇ、辛気くさい人には辛気くさいものしか寄ってこないの! こういうときはムリヤリでもいいからとにかく笑う! わかった?」
「……ひゃい」
あまりの勢いに肯定しかできなかった。半ば強制的ではあったが私の答えに満足したらしい。戻って機器を操作する。
「てことで、ちゃんと盛り上げてよ?」
目の前の画面には大きく「Enjoy」と表示された。
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