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深淵
「私……晶のこと、好きよ」
「うん、知ってる」
彼女の細い体を抱きとめる。どうしてこんなに痩せているのか、どうして今ここにいるのか、彼女の瞳に何が映るのか、僕は全部知っている。
もうすぐあいつは結婚する。彼女にとって僕は、あいつの身代わり人形でしかない。
でもそんなことは関係ない。本当に好き合ってないのに付き合っても意味がないとか、正々堂々落としてやるなんて、そんな余裕も小綺麗さもない。
今、僕の腕の中に君がいる。ただそれだけでいい。
これからも僕たちは歪なまま求め合うのだろう。心の奥に隠した気持ちが、皮肉なことに噛み合ってしまったから。
人気のない公園の闇は、僕たちを肯定しているかのように背中を押す。そして深く抱きしめ合う。
次第に彼女は細かく震え出す。顔は見えないが泣いているようだった。
「……あったかいね」
「当たり前だろ」
僕たちはもう、ひとりじゃない。
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