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4 あなたには向かない
「巻き込んじゃって悪かったわね、明奈ちゃん。まさか試験相手がこんなにマヌケとは思わなくて。ごめんなさいね」
「試験……?」
「そう、私は喫茶店のママをしながらね、ちょっくら裏の仕事もやっていてね。で、そっちの稼業の方は常に人手不足で困ってたんだけど。そこに、借金のカタになんでもやるって言う男……つまり、川村さん……が泣きついてきたっていうのよ。それで、果たして彼が使い物になるかどうか、試しに私の誘拐を試験としてやらせてみることにしたの」
「はぁ……そういうわけでしたか……」
私は意外な事実と安堵のあまり、放心状態に陥りながら、狭い車内でほう、と息をついた。隣を見れば、川村さんは縮こまるようにして、車の床に視線を落としている。
「そういうわけだったのよ。でもまさか、明奈ちゃんを誘拐しちゃうとはねえ。使い物になる以前の問題だったわ。ねぇ? 川村さん?」
「はい……」
「試験結果は聞かずとも分かるわね。はい、新小岩駅着いたわよ。ロータリー混んでるから、手早く降りてね」
「はい……」
タクシーが止まり、ドアが開く。そして、私と、うなだれたままの川村さんを駅前の雑踏に降ろすと、妙子ママの車はさっさと走り去って、ネオン瞬く夜の街に消えていった。
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