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「J将軍、いまどこですか?」  K国の将軍様に、ニッポンの首相キシダから、衛生電話が入った。二国間の秘密のホットラインだ。 「ああ、いま兵器工場で、新しいミサイルの視察してる。なんの用?」 「ちょっと急ぎでね、また二三発、日本海近郊に撃ち込んで欲しいんですよ」  ニッポン政府はこれまで、政府の風向きが悪くなると、K国に電話でミサイル発射を頼んできたのだ。  政府の議員や大臣が、贈収賄事件などで世間をにぎわすと、不思議とK国からミサイルが飛んでくるのは、こうしたからくりだ。  政府批判に傾いていたニッポン市民も、ミサイルが撃ち込まれると、防衛力強化を掲げる政府を支持するので、こうしてことなきを得てきたのだ。  将軍様が思い出したように訊く。 「そーいえば、いまおたくの国、総選挙中だったね。ひょっとして、選挙に負けそうなの? あんた、総裁になったばっかだよね」  キシダは素直に認めたくなかったが、四の五の言ってられない。 「まあ……恥ずかしながら、そーなんだ」 「だから、前のアベのときに、独裁政権完成させときゃよかったんだよ! 憲法も改正してさ。ウチなんか楽なもんだよ。たまーに逃げ出す市民いるけど」 「ですよね。ぼくのキシダノートにも”目標独裁政権!”ってメモってありますよ」 「それとさ、キシダさん。うちも、ウーバーイーツじゃないんだから、電話一本でミサイルお願いってさ、たのんますよ」 「ええ、ですから、お電話するまえに、検討に検討を重ねて、やはり将軍様だと、こうなった次第です。なにぶん、明日、十月三十一日が投開票日なもので……」 「なるほど。それで、情勢が悪いんで、いつものように一発ってことですね。事情はわかりました」  将軍様はしばし考えこみ、口を開いた。 「わかりました。原油価格も高騰してるし、燃料代もバカになんないんですよ。でもって、急な依頼ってことで、特急料金ですよ」 「それはもう! ちかじか消費税を十九パーセントに上げるので、カネは余裕です! ニッポン国民には内緒ですよ」 「わかりました。じゃあ、いつものスイス銀行の口座に頼みます。入金確認できたら、すぐにポチっと撃っときますんで。二発の値段で三発。一発は、キシダ政権勝利の前祝いで、サービスしとくよ」 「助かります! では!」  およそ一時間後、入金を確かめた将軍様は、将軍室の金庫から発射ボタンを取り出し、赤いボタンをプッシュした。  ひと安心し、キシダは街頭演説を再開した。 「新しい資本主義は、このキシダノートにつづってきた、国民のみなさまの声に、成長と分配を——」  何本ものマイクを握りしめ、必死に声を張りあげるキシダに、秘書が慌てた顔で駆け寄った。 「そ、総理、将軍様から緊急電話です!」
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