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靴を玄関に放り、リビングに飛び込む。
「仁!」
リビングは両親と生活していた頃と同様に整然としていた。ひとつ違うのは、中央のローテーブルに分厚くて難しそうな本がいくつも積み重ねられていることだった。
ソファでその本の一冊を手にしている仁の姿に、凛子は立ち尽くしたまま肩で大きく息をしていた。
「お帰り、凛子」
驚いた表情で固まっていた仁は、凛子の姿を認めると一瞬泣きそうな顔をしたが、すぐに大きな口を左右に引いて、ニカッと笑った。凛子はまだ呆然と弟の顔を見つめていた。
「ご飯、食べる?」
「......あるの?」
「あるよ。毎日二人分作ってたから。いつか来ると思ってたから」
茶色のニットの仁は立ち上がってキッチンへ向かった。その後ろ姿を見つめながら、凛子はリュックを前に回して抱き締めた。
「……ばっかみたい」
「え?」
「......アンタ、学校サボって何やってんのよ」
ビーフシチューのいい匂いが漂ってくる。凛子の瞳に熱い涙が込み上げてきた。滲んだ視界には、法律の専門書が並んでいた。
「凛子」
仁が優しく声をかける。それが癪に触って凛子は仁を睨んで声を荒げた。
「困ってると思って慌てて来たのに、何やってんのよ! 私、明日試験なのよ!?」
堪えていた涙が一気に凛子の大きな瞳から溢れ出た。
「私から離れた所で、アンタまで死んだらどうしようって……!」
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