仁の居場所

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 仁は口だけ笑っていた。息が詰まりそうな沈黙に押し潰されて、凛子は丸襟を引っ張った。 「ちょっとしたSOSだよ。助けてほしかった」 「……どういう、こと」 「家がなくなったら、帰ってくる場所がなくなっちゃう」  凛子は仁が皮肉っぽく笑っても、一緒に笑うことはできなかった。 「だって、体が見つかった訳じゃないのに。どこかで生きてるかもしれないのに」 「仁」 「いつか帰ってくるかもしれないじゃん。……けど、もう一人じゃ限界」  立ち尽くした仁の頬に涙がひと筋だけ伝う。凛子は溜め息を吐いて、リュックを下ろした。ふとあることを思い出して、リュックのファスナーを開ける。 「ほら、白餡のたい焼き。食べな」 「……買ってきてくれたんだ」 「たまたま買ってたのよ」  なんの脈絡もなく出てきたたい焼きは冷えていた。けれど、仁はそれを温め直すこともなく、立ったまま齧り付いた。 「仁とママは白餡派だったよね」 「……うん」  再び仁の瞳から涙が溢れる。 「……大学、編入する気なの?」 「うん」 「私を、支えようとか考えてるの?」 「…………」  暫く沈黙が続いた後、仁はたい焼きを食べ終えて、凛子をしっかりと見つめた。 「うん。俺、頭いいから。収入がいい仕事に就く」 「バカね」  凛子が困ったように笑うと、仁も歯を見せて笑った。
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