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『えっ……』
二人しかいないリビングに、仁の驚いた声が響いた。
凛子が不思議に思って見ると、彼は小さく開けたまま、真っ青な顔で電話機を見つめていた。
*****
葬儀や諸々の手続きが終わった後、父方の祖父母が、凛子と仁を事故現場に連れてきてくれた。沿岸沿いのガードレールが一部無惨に破れていて、真っ赤なカラーコーンとそれに引っ掛けられた黄色と黒のシマシマ棒で塞がれている。
二人の遺体は見つからなかったそうだ。ただ、崖の下に落ちていたワンボックスカーのナンバープレートから身元が分かったという。
吹き付ける風に、凛子の長い髪が踊った。他はどこも動かず、凛子は冷たい風に唇をむすんだ。
あの日からずっと感情を落としたままだった仁は、祖父母が準備した花を道路に飾るのをじっと見ていたが、ふと顔を海に向けた。
凛子の目の前で、仁は大きく息を吸った。
『ねえ! 何処にいるの!?』
怒りと絶望が混ざり込んだ叫び声と慟哭を、風が運んでいった。
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