プロローグ

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「あなたには関係ないでしょ」  言葉を尖らせて、この男を牽制する。  一刻も早く、この場所から引き離したかった。  無駄な会話はしたくない。  何も関与せずに、速やかに立ち去ってほしい。  そんな私の心情を理解していないこの男は、また何か話す素振りを見せている。 「関係ないかー、関係ないけど、困るんだよね」  見ず知らずの他人が、困るだって?   冗談を言うのも大概にしてほしい。  今初めて会った赤の他人に、私の気持ちの何がわかるって言うのか。迷惑なのは、こっちの方だ。 「困る? 私が死んで、あなたに迷惑がかかるんですか?」  まだまだ、私の反抗心が止まらない。  それほど、この機会に水を差した男の善意が、憎くて堪らなかった。  どこまでも尖っている私の言動に、男は苦笑いを浮かべている。 「いや、だって目の前で人が死なれたら、たまったもんじゃないでしょ。一生モノのトラウマ植えつけられるよ」 「じゃあ、見なかったことにしてください」  男の言葉を、飲み込むことなく打ち返す。  その食い気味な反応に、男はまた困り出した。  これだけ強気な姿勢を見せれば、男も引き下がってくれるだろう。 「見て見ぬフリはできないでしょ。それに、もう一つ理由があるんだ。ここで死なれたら困る理由が」  死亡予定時刻から、数分遅れを取っているこの瞬間に、吐き気を催してくる。  どうしてスムーズに死なせてくれないのか。  もうとっくに、生きる気力なんてないのに。  この男との会話を早く終わらせたくて、仕方なく言葉を返した。 「何なんですか、あなたが困る理由って」  私の疑問に、すぐ反応するかのように、人差し指を下に向けた。そのジェスチャーが何を意味しているのか、一瞬では判断がつかない。  このビルの下に、何かがあるとでも言いたいのか。 「このビルの一階に、俺のサロンがあるんだよね」  サロン? この汚い雑居ビルの中に、サロンが入っているなんて、相当場違いだろう。  確かに、裏路地にあるひっそりとした出入り口から侵入したから、表側のことはわからない。  表側は大通りに面しているはずだから、お店が入っていてもおかしくはないけど。  それでも、築何年かもわからないこのビルの中で、よくサロン経営なんてできるな。  どういう神経をしているのだろうか。  そもそもサロンとは、一体何のお店なのか。  この男の言っていることが、全く理解できない。 「あ、もしかしてサロンとか行ったことないか」  ポンと手を叩きながら、私の心の内を読み取る。  頭の中がこんがらがっているのが、表情だけでわかるみたいだ。
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