桜の花びら

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 勢いよくドアを開けると、重苦しい空気が病室内に蔓延していた。  匠さんが目を閉じているベッドの前には、白衣を着たドクターと、風太君がまんじりともせずに立っている。  二人の曇った顔が、突然入室してしまった私の方に向かれた。 「樺山……」  風太君の沈んだ声で、大体の状況は把握することができた。  心電図が波を打っていることから、匠さんは死んではいないみたいだ。  だけど、明らかに様子がおかしい二人を見ていると、匠さんの体に何らかの異変が起きているのはわかる。  こわごわと、匠さんの容態を聞いてみた。 「あ、あの、匠さんは、大丈夫なんですか」  大丈夫じゃないのは聞かなくてもわかるけど、それ以外の言葉を使いたくなかった。具体的に何がどうヤバいのかなんて、聞いても胸が苦しくなる情報だから。  だから私は、オブラートに包まれた答えを求めて、こんな中途半端な聞き方をしたんだ。  そんな私の心情なんて知らないドクターは、胸を抉り取るような、辛辣な現実を説明してくれた。 「匠君は、今朝から血圧が低下している。非常に、危険な状態だ」  鼓膜が破れたかのように、周りの音が消えた。  力が入らなくなって、全身の身震いが止まらなくなる。  耐え難い現実を告げられた瞬間、正気を失うように、頭の中がぼんやりとし始めた。  ついに、この時が……絶望と共に手から離れた認定証が、パチッという音を立てて床に落ちた。 「あ、樺山、これ……」  風太君が落ちた認定証を拾ってくれると、私に渡す前に内容を確認した。  プロセラピスト認定証という名称が風太君の目に入ると、少しだけ顔の陰りがなくなった気がする。 「兄貴との約束、守れたんだな」  雲間に光が差し込むように、風太君は目を光らせてくれた。  そうだ、私は約束を果たしたことを、匠さんに知らせに来たのだ。  匠さんは、私の声を聞き取れるのだろうか。  せっかく目標を達成することができたのに、それを伝えられないのだったら意味がない。  匠さんは、私が立派なセラピストになるまでは死なないと言った。  立派とまではいかなくても、せめてプロのセラピストになれたということだけは、伝えないと。  それさえも知らないまま死ぬなんて、約束と反しているから。  ベッドの横についてある柵に手をかけて、間近で匠さんの顔を見る。  すると、私の想いが通じたのか、匠さんの瞼がスローモーションで開かれた。 「匠さん!」  思わず柵を揺らしてしまうと、匠さんの顔も左右に揺れる。  ドクターが「ちょっとごめんね」と言って、私の前に割り込むと、匠さんの様子を確認し始めた。  脈を図るようにしながら「匠君、わかるかい」と、何度も聞いている。  そのドクターの問いかけが耳に入る度に、匠さんは僅かに頷いた。  匠さんとコミュニケーションが取れることに、自分の気持ちを抑えることができない。
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