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「さ、すが、しおり、ちゃん。よく、やった、ね」
一文字ずつ耳に入る匠さんの言葉で、今日は止まる様子のない涙が、加速を増して流れてくる。
匠さんには悟られないように、必死に笑顔を作って答えた。
「これも全部、匠さんのおかげです!」
「はは、こ、これで、お、れも、しねる、なぁ」
安心したように笑いながら、死を受け入れるような発言をする。
匠さんは、ギリギリのところで、踏ん張ってくれていたのかもしれない。
私がもうすぐ病院にやって来るのを知っていて、懸命に死までの時間を伸ばしてくれていたのかも。
解放されるように崩れた顔つきを見ていたら、そんな風に思えた。
だったら、これが本当の本当に、匠さんとの最後の時間だ。
今、私が匠さんにできること、それは一つしかない……私が死のうとしていた時に、匠さんが言ってくれたあのセリフを、自信を持って言う。
「匠さん……死ぬ前に、ひと休みしませんか?」
匠さんはまたもや「はは」っと笑って、今度は足を動かした。きっとこれは、よろしくお願いしますっていう合図だ。
今行う施術は、初めて会ったあの日に、匠さんが私にしたような施術ではなく、これまでの感謝を伝えるような施術になるだろう。
人を救うような施術ではなくて、想いを伝える施術だ。
ベッドの足元に椅子を運んでそのまま座ると、掛布団から剥き出しになった匠さんの足を捕まえる。
匠さんの足は、すでにポカポカだった。
紛れもなく、匠さんの心は温もりに溢れている。
足を包むように触ると、これまで一緒に過ごしてきた記憶が、次々と思い出された。
この世から身を引こうと、卑屈になっていた私を、温かな施術で救い出してくれたこと。
そして、リフレクソロジーという生きる希望を、私に持たせてくれたこと。
初めて、人を好きになる感覚も、そんな人が消えてしまうという絶望も……全て匠さんが教えてくれた。
匠さんがいなかったら、こんな辛い現実と向き合うこともできなかっただろう。
匠さんと出会わなければ、私の人生は間違いなく終わっていたはずだ。
一人じゃないことにも気づけたし、この世にはたくさんの希望が転がっていることも知れた。
匠さんの前向きさが、私の根底にある暗闇を葬り去ってくれたんだ。
今後も生きていこうと思わせてくれる、とても強固な心。
それを作り出してくれたのは、匠さんが諦めずに『死』と闘ってくれたからだろう。
言葉では伝えきれないほどの感謝を、この指に乗せて伝えないと。
匠さんの足裏へ、私はもう一人前になれたっていう証を、最後に見せておかなければ。
私が持ってる全ての技術と魂を、匠さんの足裏の上で表現していく。
「し、おり、ちゃん……」
足元の延長線上にある、匠さんの唇が微かに動き始めた。
私は手を止めて、その表情を確認するために、座っていた椅子を倒す勢いで立ち上がった。
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