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「で、そっちはどうだったんだ」
『あ~、残念ですけど諦めた方が良さそうですね。何かパンダと狸とナマケモノを足して割ったような生物が部屋に住み着いてて、隣の部屋には血まみれになりながら壁にヘドバンかましてる女の人がいました』
「ちょっと俺の想像力にも限界がある。何だその生物は。一体そのアパート過去になにがあったらそうなるんだ」
『一応謎の生物は見ようによっては可愛いんですけど、動物園みたいなニオイします』
「あ、無理。却下」
獣が嫌いな為心底嫌そうな顔をして先ほどの二重丸をしていた物件にバツをつける。ヘドバン女よりも動物の方がイヤだと言うあたりが中嶋らしい。他をざっと眺め、三つに絞り込んだ。仕事の内容が尾行、張り込みなので交通の便が良い事を考えると駅近くがいいが、踏み切りや駅は自殺や事故死した霊がうろついている可能性があるのであまり近過ぎるのも困る。
近くに魔のカーブや事故多発地帯はないか、団地などがあり孤独死する老人は多くないか、総合病院はないかなどチェックする事は多い。
どうせ仕事であまり家にはあまり戻らないし、インドアでもないのでやる事がないとフラっと外に出かけるのでそこまでこだわらなくてもいいのだが、身も心も休みたい時に今回のような事があると心底カンベンして欲しいと思う。長く住むにはやはり慎重に選びたい。
今日の仕事はいつもどおり浮気調査で、夫が家に帰る回数が少ないので尾行して欲しいというものだった。必然的に夜なので、日中はさっさと物件の見学を済ませてしまうことにする。
「一華、ちょっと手貸してくれ」
『いいですよ、何ですか?』
「今から物件回るから、部屋の中に何かいないか見てきて欲しい。部屋の見学は何もいないの確認してから改めてするから」
『はーい』
中嶋についていけば一華も移動ができる。いつもは仕事に関係ない事を頼むような事はしないのだが、今回は力を借りたかった。部屋の中の前衛的アートは別にいいのだが、夢の内容がよろしくない。
夢の中だと自分の意思が通用しない為普段よりも数倍の精神ダメージがあるのだ。こんな事の繰り返しでは身が持たないし、かといって家に帰らないのでは家賃がもったいない。
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