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昔から見聞きできる事に加えどうやら引き寄せやすいタイプらしく、放っておくと霊や悪意のほうから寄って来る。たいていは無視していればなんとかなるのだが、住む家となると話が別だ。
電車に乗って一軒目の物件に向かう。私鉄駅から徒歩五分、コンビニもスーパーもない見事な住宅密集地だ。信号を曲がり現れたアパートを見て中嶋は半眼になった。
『うわー、年季入ってますね』
「……お前アレどういう風に見える」
『え? 今にも崩れ落ちそうなボロアパートですけど……』
一華の目には築何十年だよと突っ込みたくなるような昔懐かしい感じのアパートがあるようにしか見えない。壁にはあちこち大きな亀裂があり、階段には何かの植物の蔓が巻き付いている。正直人が住んでいるのかどうかも怪しい。
「そうか。幽霊でもやっぱ見えねえのか。一華が見えるものって霊限定なんだな」
『へ? なんか違うもの見えるんですか?』
「見えるっつーか逆に何も見えないっつーか……ただひたすら黒い」
指でちょいちょいっと憑依するように合図を送ると一華が中嶋に憑依をして彼の目を借りる。一華の霊としての目を貸すこともできれば逆も然り、何度も憑依を繰り返し練習してきたのでこれくらいの芸当はできるようになった。
一華がアパートを見るとそこにあったのは真っ黒な建物だった。先ほどのボロアパートではない、シルエットさえわからない黒い建物としか言いようがない。黒は微妙にゆらゆらと揺れていて形をはっきりと捉えることが出来ず、まるで建物が黒い炎に焼かれているかのような印象だった。
憑依を解きげんなりした様子で一華が中嶋に問いかける。
『なんですかアレ……』
「形のないモノは死者の思いの塊だ。恨みか苦しみか、なんにせよ良い感情じゃない」
『そんなものまで見えるんですか霊感ある人って』
「個人差はある。見えないけど嫌な気配を感じるだけとかな。いずれにしても却下、こんな所に住んだら一秒でゲロ吐く」
くるりと踵を返して即座に諦めた。何があったのかは知らないがどう考えてもろくな事ではないので知りたいとも思わない。
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