蟲毒

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 黒い塊と繋がっていた中嶋には黒いものの最後がよく見えていた。だから起きた時小杉に佐藤から連絡はあったかと確認し、全て終わったという言葉に納得したのだ。 「……あの呪法は期間限定なので。目的のものがすべて消えれば持ち主にお帰り頂く仕様ですから。サトさんとの縁を切ったことでビルに吸い寄せられたので、もう一度サトさんと縁をつけたんでしょう。そして一華ちゃんを助けた後改めてサトさんとの縁を切る事で黒いものに『すべて終了しました』と教えてあげたんでしょうね。使っている人はその事を知らなかったのかもしれません。あ、これ独り言なので気にしないで下さい」  小杉がやたら詳しいことに関しては言及しない。本人も言いたくないであろう事をわざわざ教えてくれたのだ、それ以上の事を聞こうとは思わない。小杉も中嶋が深く突っ込んで聞いてこないというのを見越して教えてくれたとも思う。  黒いものがあのビルに戻り、倒れていた男をまではっきり見えていた中嶋はこれ以上被害が出ることがないことをわかっている。この様子だと小杉もわかっているだろう。  人を呪わば穴二つ、とは昔からよく言う。相手に何か悪い事をしようとして、自分に何も返らずに良い事ずくめなものなどない。それをわかっていないのは本人の問題だ。  あれだけ専門的な呪術を行っていたにも関わらず最後自分に戻ってくることを本当に知らなかったのか、それとも何か対策があったのかは知らないが結局は戻ってきたし男もそれを防げずに終わってしまった。やり方次第では黒いものをなんとかして男をふん縛り事情を聞くこともできただろうが、必要な事を知ることができた順番が完全に逆だったのだ。一華を助けるというタイムリミットもあり考えるよりも行動するしかなかった。  他人から酷いと言われ様が罵られようが、中嶋は今回の結末に特に不満や思うところなどはない。殺されて亡くなった人たちは気の毒だと思うが、男の末路はなるべくしてなった事だ。赤の他人に対してはどんな事情があったとしてもそれをすべてどうにかしようなどと思わない。  自分に正義の心があったらそうしていたのだろうか。子供の頃から誰にも分かってもらえなかったという苦しさ以上に、佐藤と初めて会ったとき感じた死者に対しての本当の恐怖というものが今も自分の中に根付いている。それを教えるためのあの出来事だったのだから佐藤の教えは効果抜群だったと言えるだろう。
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