ニグフバ

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 五分と滞在せずに次の目当て物件へと向かう。最寄り駅には路線が多く乗換えが便利、大型百貨店もあり生活に不便はなさそうな立地だ。少々家賃が前より上がるがそれを考慮してもそこそこいい場所だと思う。  坂を上って歩くこと数分、見えてきたアパートの外観はひとまず普通だ。 『あ、見た目結構オシャレじゃないですか』 「見た目はな」 『あれ? 何かお気に召さないですか』 「……いや、だってここ臭えし」 『へ?』  言われてスンスンと匂いを嗅いでみると、うっすらと何かがにおってくる。中嶋が更にアパートに近づいていくとだんだんその匂いは強くなり、ようやく一華にもわかった。その答えを言う前に、あちこちから聞こえてくる大量の猫の鳴き声。  うんざりした様子で中嶋がアパートの隣にある大きな一軒家を見る。庭がかなり広くおそらく裕福な家なのだろうと一目でわかるそこには、大量の猫の霊が歩き回っていた。いや、霊だけではなく実際生きた猫もチョロチョロ歩き回っている。  車もあり人が住んでいる様子があることから、現在進行形でこの家は大量の猫を飼っているようだ。それも最近ではなく長年飼い続けているのだろう。  買って来ているのか子供を産んで増えるのか、いずれにしても死んでもまた新しい猫がやってきて途切れる事がないのだろうと思う。それほど猫の霊は多かった。 「何で獣って死んだらやたらと臭くなるんだろうな」  顔を顰めて唸るように言う中嶋はすでに殺気立っていた。中嶋に気づいた猫達は生死問わず中嶋に寄ってきてじゃれ付き始める。中嶋の傍にいた一華は彼の周りの空気がどんどん冷えてきている事を感じ取り、慌てて霊のほうの猫を捕まえ始めた。 『さ、サトちゃん抑えて、蹴っ飛ばしちゃダメですよ』  霊同士であるため一華が霊を触ることができるのが幸いだった。中嶋の肩によじ登り始めた猫の霊を二匹捕獲し、足にじゃれ付いている猫を自分の足で軽く追いやる仕草をする。 「何で動物って動物嫌いな人間に寄ってくるんだか」  生きてる方の猫を猫掴みしながらポイっと放り投げるとパンパンと手を払い、先ほどと同じように踵を返してその場を立ち去る。 『やっぱり却下ですか』 「こんな悪臭じゃメシも食えんわ」  確かに隣人に猫を飼うなとも言えないし猫の霊が大量にいるからどうにかしろとも言えない。加えて生きている猫は人の家に入ってこないが、死んでいる猫はそんな事お構いなしに好き放題だ。  たとえ今彷徨っている猫の霊をなんとかしても今後も量産される予定があるのでイタチゴッコとなる。はあっと小さくため息をついて最後の物件に向かうことにした。
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