ニグフバ

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 最後の目的地はニュータウンで次々と家が建っている開発地区だった。今はまだ店が少ないが、駅には大型ショッピングモールがあり今後も次々と施設が建設予定だという。電車は一つしかないが道路が広い。今までは必要性がなかったので自分の車はなかったが、仮にここに住むのなら中古で車を買うかカーシェアリングをした方がいいかもしれない。  アパートも半年前にできたばかりの新築、ここも悪い条件ではない。周りにはあまり家がまだ建っておらず霊などもいなさそうだ。 『おお、なんか良い感じじゃないですか』  あたりを見回しながら言う一華に中嶋も見回しながら頷いた。 「そうだな、変なのはいない。ま、日中と夜じゃまた違うから夜また見に来てもいいかもな」  浮遊霊にしろ悪霊にしろ霊というのは大抵夜に動く。というより、昼もいるのだが太陽の光に透けてしまうだけであまり気にならないだけだ。夜になるとはっきりと見えるのに加え彼らも暗いほうが元気がいい。昼に何もいないからと言って夜も何もいないとは限らないのだ。  目星をつけていた二件はだめだったのでこの物件に決めてしまいたい。移動に時間を使ったのでもう夕方になってきている。そろそろターゲットを尾行する準備をしなくては間に合わない。ひとまず事務所に戻り、仕事が終わってからまた来る事にした。  駅に向かおうと歩き出すとポツリと建つ一つの建物が目に入った。三階建ての小さなビルでこれも最近できたのだろう、真新しい様子だ。立ち止まったりはしないがチラリとその建物の表札を見ると「救世フォール会」と書かれている。宗教団体のビルのようだ。  勧誘でもされたら面倒なので足早にその場を離れた。宗教団体にはそこまで詳しくないが、職業柄いろいろな事を聞きかじる事は多い。それでも聞いたことのない名前だった。建物が新しいのならわざわざ建てたのだろうから新設された団体か、母体団体から離れたものかもしれない。  宗教=トラブルの元というわけでもないが、一応調べておく必要はありそうだ。それに気のせいかもしれないが、まだ明るいというのにそのビルの周囲だけなんだか薄暗く感じた。
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