コナキジジイ

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コナキジジイ

子泣(こな)(じじい)】  老人の姿で乳児の泣き声を上げる妖怪。一度抱き上げるとしがみつき離れなくなり、その体を段々と重くしていき、遂には抱いた者を押し潰してしまう。その重さから、自身を石化させている、とも伝えられている。  小宮さんがまだ小学生だった頃の話だ。  当時住んでいた地区は自然豊かな田舎(いなか)で、畑や田んぼばかりが拡がっていた。コンビニエンスストアのような気が利いた店舗はなく、周囲は山に囲まれており、夜は真っ暗闇になってしまう。街灯もわずかばかりで、あってなきがごとしだったそうだ。  ある夏の日。  小宮さんは仲の良い友人達と肝試しを計画した。言い出しっぺは誰か覚えていないが、全員肝試しに乗り気だった。  行き先は近所のトンネルだ。当時はまだ照明設備が整っておらず、夜中は危険なので車の通りもない。明かりを用意しなければなにも見えない場所だった。  肝試しに参加したのは小宮さんを含めて五人。各々の家で夕食を済ませてから、トンネルの前に集合した。持ち物は懐中電灯と小銭を一枚。小宮さんは五円玉にしたそうだ。  ルールは簡単。ひとりずつトンネルを行って帰ってくる。向こう側の出口あたりに地蔵があるので、本当に辿り着いた証拠としてそこに小銭を置いてくる、というものだ。  お賽銭(さいせん)感覚だったらしい。  順番はジャンケンで決めたところ、トップバッターは小宮さんだった。  夏なのにひんやりとして湿気の多い道は、なにかが出そうな雰囲気で満ちていた。が、特別恐ろしい目に遭うことなく、無事に地蔵の前に小銭を置いて帰ってこれた。他の友人も同様。あっという間に順番は回り、残すは最後のひとりだけになった。  だが、そこで事件は起きた。  五人目の子が戻ってこない。  行き帰り五分程度の道のはずなのに、出発してから十分以上が経過していた。  なにか事故でもあったのか。嫌な予感がした小宮さん達は、急いでトンネルの向こう側へ走った。  トンネルの出口。そのすぐ横の草むらに五人目の子は倒れていた。  気絶しているのか、呼びかけても叩いても目を覚まさない。さっぱり反応がなかった。  大変なことになった。  慌てた小宮さん達はその子を背負い、大急ぎで帰った。  小太りなせいかやけに重かったので、交代で背負って運ぶハメになった。  どうにか無事、その子の家に辿り着く。  小宮さんは背負ったままの体勢で、全力で呼び鈴を連打する。  一大事なんだから早く出てくれ。  親にはきちんと事情を説明しないと。  何度も何度も、呼び鈴を押した。  やがて「うるさいなぁ」と応答が聞こえた。  気怠(けだる)そうな態度で玄関から出てきたのは、五人目の子、その人だった。  どうやら肝試しの予定をすっかり忘れたらしく、ずっとテレビを見ていたらしい。友達四人がやってきて、ようやく思い出したようだ。  じゃあ、ここまで運んできたのは誰なのか。  そう思って自分の背中に視線を移すと、そこにあったのは一体の地蔵。  小宮さん達は、地蔵を友人だと思い込み、必死に背負って運んでいたのだ。  そしてなぜか、小宮さんのポケットには四人分の小銭が入っていた。 「お地蔵さんの前で肝試しなんかしたから、(ばち)が当たったのかもしれませんね」  後日、地蔵は元の場所に戻した。  それ以来、肝試しは二度としなかったそうだ。    ろうそくは残り――九十九。
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