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※はじめに※
妖怪。
彼らはかつて夜の闇に跋扈し、その異形の姿をもってして人々を不安と恐怖のるつぼへと陥れていた。
しかし、今やどうだろうか。
科学の進歩とともにあらゆる不思議は解明されていき、オカルトの入る余地はなし。妖怪の仕業とされてきた現象の多くが、神秘のベールを引き剥がされ白日の下に晒されてしまった。
彼らに対する畏怖の念はどこへやら。
現代では妖怪イコール得体の知れぬ怖い存在ではなく、老若男女に広く愛されるキャラクターになっている。
漫画やアニメ、ゲームはもちろんのこと、ときにはドラマの題材に。
可愛さ重視のグッズ展開がされることも多々ある。
時代の移り変わりとともに、人と妖怪の関わり方も大きく変化しているのだ。
しかし、それで良いのだろうか。
本来妖怪とは、人々が抱く未知の存在に対する恐怖や不可思議な出来事より生まれた者達であったはずだ。それゆえに、謎を振りまいて恐怖を伝染させることがその使命だったのではないか。
その観点から言えば、現代の牙を抜かれた彼らの姿は嘆かわしいものである。
日本古来からの文化として、妖怪は不抜けたままで良いのだろうか。
令和の世に、謎と恐怖の伝道師としての意志を継ぐ者はいないのだろうか。
そこで私は妖怪の名を復権させるべく本作の執筆に至った。
これまでに蒐集してきた恐怖体験談の中から、妖怪の名を継ぐに相応しい話を独断と偏見で厳選し、ここに記す。
謎と恐怖をもたらすのは霊や化け物だけではない。サイコホラーに代表される素性の知れぬ隣人や異常性を持つ特異な人々。また、それらとも違う、予想だにしない存在も紛れて込んでいる。
その数、実に百本。
この作品群では百物語の形式にのっとり、話の終わりごとに一本ずつ、ろうそくを消す文言を入れていく。
百物語を語り終えて全てのろうそくが消えたとき、恐ろしいあるいは不思議な現象が起こると言われている。怪談につられてこの世のものではない存在が忍び寄ってくるから、と言われているがその真相はわからない。
文章という媒体を用いているので、語っているわけではない。しかし、百話を語るのは事実。
この物語を全て読み終えたとき、あなたのもとになにが起こるのだろうか。そちらについては自己責任で読んでいただきたい。
もっとも、この物語群を執筆した私自身は無事であった。あなたが霊感体質ではない限り、過剰に怯える必要もないだろう。
要するに念のための注意書きだ。
深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いている。
それだけ心に刻んでおいてもらえればいい。
さて、心の準備はよいだろうか。
それでは、怪異襲名百鬼夜行語の開始といきたい。
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