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警察を呼んだ? 奈波を追い詰めたのが俺? こいつは何を言っているんだ? 奈波と俺は両思いなんだぞ。
奈波が黙って差し出してくれたシャーペン。そこには俺のあだ名になっている豚の顔と、おまけにハートマークが施されていた。
ぽっちゃり系イケメン男子を自称する俺は、なぜか周囲からデブだ豚だと罵られてきた。いや、正確には妬まれていたのだろう。
だからなのか、同学年の女子は俺を遠巻きに見ることはあっても、声を掛けてくることはなかった。おそらく手の届かない存在だと初めから諦めていたからだ。
シャーペンを受け取った時、明らかに奈波は照れて俺から顔を背けた。
それに気づいた時に確信が持てた。この子はガチ恋勢なんだ、と。
他の女のようにただの憧れに留まらず、俺に本気で恋をしていて、その想いを伝える決心をしたのだと。
学年中、いや学校中から羨望の眼差しを受け、一歩引いた目で見られている俺を愛してしまうなんて、その上想いを伝えるだなんて、相当勇気が必要だっただろう。下手をすれば他の女子からは抜け駆けだと嫌がらせを受ける可能性も否定できない。
それなら応えないわけにはいかなかった。俺が守るしか方法がなかった。
だからあの時、寡黙な奈波の愛情と優しさを、俺はきちんと受け止めたのだ。
それなのに、なぜ……?
テストの日に筆記用具を忘れた俺の机に、こそっと置いてくれたシャーペンを、もう一度強く握りしめる。
やはりいくら考えてみても、岡崎に何を言われているのかさっぱりわからない。あいつは頭がおかしくなってしまったのだろうか。だからこそ奈波は部屋に招いたのかもしれない。
同じように心を病む者として、岡崎を救ってやろうと考えたのだろう。奈波
はそんな優しい子なのだ。
考えを巡らせていると、エントランスから彰人と奈波が手を繋いで出てきた。よく見ると、二人の手にはペアリングらしきものが光っている。
……シャーペンが手からこぼれ落ちた。
ズボンのポケットにその手を突っ込むと、いざという時に奈波を守る為に忍ばせておいた黒刃のカッターナイフを握りしめて、俺は真っ直ぐ駆け出していた。
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