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図書室を出ると、家には帰らずに奈波の教室へ向かった。
平然と、『先に帰る』と言ってしまったのは、やはりよくなかったかもしれない。
だけど、帰ったはずの俺が実は内緒で待っててくれたと知ったとき、奈波はどんな反応をするのだろう。
きっと喜んでくれるはずだ。
澄ました顔で、「帰ったんじゃなかったの?」なんて言いながら、もどかしそうに俯くに違いない。会議を終えて戻ってきた時、いつも冷静沈着な奈波がどんな顔を見せてくれるのか、今から楽しみだ。
そういえば、付き合ってから一度だけ、奈波が驚いた顔を見せたことがあった。
奈波の様子がおかしくなり始めた時に、俺は奈波を守る為にサプライズプレゼントを用意した。すると、奈波は笑顔になるより先に驚愕の声をあげた。
「喜んでくれたかい?」と訊くとぎこちなく笑い、俺達は初めて唇を重ねた。
廊下を進んで教室の手前までくると、中から奈波の話し声が聞こえてきた。
早いな、もう会議が終わったのか?
少しだけ不審に思いながら、教室のドアを開けようと手を掛けた瞬間ーー
「あの人も帰ったみたいだから、きっと大丈夫よ。わたしも今日はもう帰るわ」
奈波の声だった。
「でも会議もあったし、疲れてないか?」
そしてこの声の主は、生徒会長の岡崎。
「いいえ、生徒会は学園を良くする為に好きで入ったんだもの。わたしを悩ませるのは、いつだってあのことだけよ」
会話に出てきた『あの人』、それに『あのこと』ってなんだ?
「あいつにちゃんと伝えた方が、いいんじゃないのか?」
「無理よ、そんなこと。あんな物まで見せて、いざとなったら命に代えてもわたしを守るって言うのよ? 命に代えてもということは、人の命をも奪う覚悟があるのかもしれないじゃない。そんな彼に、悩みを打ち明けるなんて出来ない」
「怖いのはわかるよ。だから無理はしなくてもいい。それに君の優しさは筋金入りだからね。あの日もそうだ。だけどリスクを犯してまで奈波が助ける必要はなかったと、僕は思うよ」
「……褒め言葉として受け取っておくわ」
間違いない。奈波が悩みを打ち明けられない相手というのは俺だ。しかしなぜ? 奈波の悩みとはなんだ? どうして俺じゃなく、岡崎に相談するんだ? それとも奈波は俺に対して何か悩みを抱えていて、その相談を岡崎にしているのだろうか?
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