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12 戦いの始まり
この街の教会は普段は神父が常駐していないので、あまり管理が行き届いていない。教会の裏手にある墓地は草がぼうぼうで崩れかかっている墓標もある。
「神に見捨てられた街…」
ぼそりと呟く彼の言葉が気に入らなかった。
「ちょっと待ってよ。どうして神に見捨てられた街なんていうのよ?私達はね、これでもちゃんと神に関する教育を受けているのよ?この街を訪れる神官様を大切にしなさいってね」
すると彼が言った。
「それこそ、神に見捨てられた証です。神官を大切にする事で、神からのおこぼれをもらおうとする…」
「おこぼれって…何よっ!その言い方…!」
彼は一体どこまでこの街を侮辱するのだろう。すると彼は真剣な顔で言った。
「僕が今までブギーマンを倒すために訪れた町や村は…全て神に見捨てられた土地ですよ。その証拠に…」
彼はある一転をじっと見据えながら言う。
「神聖な教会の敷地に…死霊であるブギーマンが入れるはずはありませんからね…」
「え…?あっ!」
見ると、教会の門の入り口に私を攫ったこの街の町長の娘が月明りに照らされて立っていた。その姿は…怪しくも、とても美しかった。
「ローザッ!こっちへっ!」
彼は私の右手をつかみ、教会の中へと走っていく。教会の中は暗く、ところどころ窓から差し込む月明りがかろうじてあたりの様子を照らし出していた。
彼は私を祭壇の下に座らせると言った。
「いいですか?ローザ。この場所が一番安全な場所です。何があっても絶対にここから出てはいけません。これは…お守りです」
彼は法衣のポケットから小さな小瓶と、ロザリオを取り出して私の手に握らせた。
「身の危険を感じたら…迷わずブギーマンに使って下さい。そして…何があっても絶対に驚かないでくださいね」
そこまで彼が言ったとき―。
ギイイイ…
きしむ音とともに、扉がゆっくり開かれた。そして月明りに照らされた町長の娘が長い髪をなびかせながら現れた。
彼女は一歩一歩ゆっくり歩きながらこちらへ近づいてくる。
「フフフ…相変わらず馬鹿な男ね…。こんな信仰心の薄い教会で私の力が減るとでも思ったの?」
すると彼は立ち上がり、町長の娘に近づくと言った。
「その口ぶり…やはりお前は僕の事を知っているのですね?」
「当然でしょう…?我々の餌になりながら…生き延びた唯一の人間なんだから…。でも…もはや人間とは呼べないかしら?」
「だからこそ…お前達を倒して、元の自分を取り返すんですよ。お前たちに奪われた僕の全てを…返してもらうために!」
彼は言い放つと2本の剣をスラリと同時に引き抜いた。剣が月明りに照らされてキラリと輝く。
それにしても…あの2人の会話はどういう意味なのだろう?何の事なのか私にはさっぱり理解出来なかった。
「フフフ…今まではお前に散々やられてきたけれども…今夜はそうはいかないわよ?」
町長の娘はパチンと指を鳴らした。すると…。
「ウオオオオオーッ!!」
地響きと共に、この世の者とは思えぬ叫び声が辺り一帯に響き渡った。
「キャアアッ!!」
そのあまりの恐ろしい悲鳴に全身は鳥肌が立ち、毛穴が泡立つような感覚に襲われる。本能的に恐怖を感じ、私はガタガタ震えて肩を抱きかかえるしか出来なかった。
「チッ…!」
彼は忌々し気に舌打ちをしたその瞬間―
ガシャーンッ!ガシャーンッ!
教会の中の窓と言う窓が割れ…そこから腐った腕を伸ばした異形の者達がうめき声を上げながら次々と教会の中へ進入してきた―。
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