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2 不気味な予感
町はずれのほぼ森の近くに私と父さんの住む家がある。
「ただいま~父さん」
酒屋さんで買って来たお酒を袋に入れて帰って来ると、父さんの気配が無い。いつもならテーブルを前に椅子に座ってお酒臭い身体でぼんやり過ごしているのに…。
「あれ?おかしいな?何所に行ったんだろう?」
我が家は3つの部屋がある。台所兼リビング、父と母の部屋、私の部屋、そして仕事部屋…それら全ての部屋を覗いてみても何所にも父の姿は無かった。
「変だな…?」
その時、台所の勝手口が少しだけ開いているのに気が付いた。そこから先は森へ続く中庭が続いている。
何だろう…?何となく嫌な予感がする…。
そっと勝手口のドアを開けたとたん、プンと鉄のような匂いを感じた。
「え…?」
何…この匂い…。恐る恐る匂いが強く漂う方向へ歩いて行き…。
「!」
思わず悲鳴を上げそうになった。地面に真っ赤な血が大量に飛散っていたからだ。しかもまだ時間があまり経過していない様子に見えた。そして血だまりの中に…。
「う…嘘でしょう…?」
父さんが外出時にはいつも被っていた帽子がそこに落ちていた。茶色の帽子は血によって赤黒く染まっている。
ま…まさか…これは…父さんの血…?
この血だまりを見れば、生きていることが不可能ではないかと思われる有様に私は気を失いそうになった。
「ううん…違う。きっとこれは父さんの血じゃない…獣か何かの血よ…」
ガチガチ歯を鳴らしながら、私は家の中に駆け込んで勝手口のドアに鍵を掛けた。
そして玄関も鍵をかけると窓と言わず、外から侵入できそうな箇所は全て鍵を掛けると自分の部屋に駆け込み、毛布を被った。
「大丈夫…父さんなら家の鍵を持っているから、鍵を掛けていても家の中に入れるわ…」
ガタガタと震えながら私は自分に言い聞かせた。
けれど結局父はその日帰って来る事は無かった。
その翌日も―。
****
父さんがいなくなって3日が経過していた。私はなすすべも無く帰りを待ちながら父さんに代わって銀細工の加工の仕事をしていた。
ぐ~…
お客さんの依頼でシルバーリングのアクセサリーの加工をしている時、突如派手に私のお腹が鳴った
「お腹すいたな…」
時計を見ると1時を指している。夢中になっていて気付かなかったけど、朝の7時から仕事をしていてから、なんと私は6時間も仕事に没頭していた事になる。
「そう言えば今日はまだ何も食べていなかったっけ…」
お腹をさすりながら、台所へ行き…そこで私は気が付いた。父さんが行方不明になって私は1人きりになってしまったから、すっかり食事についておろそかになっていたことに。
「そう言えば食べ物も保存食も何も無かったっけ…」
仕事の手を止め、買い物に行く事にした。肩掛けかばんにお財布を持つと私は家を後にした―。
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